2017年ベストアルバム50選:TOP 50 ALBUMS OF 2017 [50-1]
2017年ベストアルバム50選:TOP 50 ALBUMS OF 2017 [50-1]
どうもゆーすPです。早いものでもう2月です。もういい加減2018年モードにならんといけないのですが、2017年の総括第二弾ということで、今回は「アルバム編」です。ということで、ちぇけらっちょい*1
※前回同様コメントは随時更新していく予定です。
50 人生、山おり谷おり / MONO NO AWARE
49 TAILWIND / TrySail
48 Aromanticism / Moses Sumney
47 17 / XXXTentacion
46 White Lights / We Are Monroe
45 FANTASY CLUB / tofubeats
44 Un giorno nuovo / Sick Tamburo
43 ノスタルジア / Okada Takuro
42 OΔ / London O'Conner
41 Whiteout Conditions / The New Pornographers
40 Halo / Juana Molina
39 Something To Tell You / Haim
38 Flower Boy / Tyler, the Creator
37 Humanz / Gorillaz
36 landmark / Hippo Campus
35 The Day We Had / Day Wave
34 Before I Wake / Kamaiyah
33 Migration / Bonobo
32 Love in the 4th Dimension / The Big Moon
31 image / Maison book girl
30 It's Nice Outside / Anti-Lilly & Phoniks
29 Ti Amo / Phoenix
28 YOUTOPIA / ゆるめるモ!
27 Everything Now / Arcade Fire
26 23 / Hyukoh
25 DAMN. / Kendrick Lamar
24 Funk Wav Bounces Vol.1 / Calvin Harris
"Funk Wav Bounces Vol.1"は、幻のようなアルバムだった。リリース時、衝撃と賞賛をもって迎えられた本作であったが、その後のサマソニでは本作からのプレイはSlidesのみでEDMモード全開のDJをかまし、カルヴィン本人も最近EDMへの回帰を匂わせている。しかしながら、本作でCalvin Harrisが提示したEDMとファンクミュージックの形は、間違いなく、これからも引用されるであろう一つの到達点だ。
23 9 / Cashmere Cat
Selena GomezやAriana Grandeといった超大物からThe WeekndやMØといった時代の寵児まで、非常に豪華な客演陣が光るCashmere Catの初となるフルアルバム。EDMとエレクトロの間、ポップとインディーの間、シュールとリアルの間、大衆と玄人の間を自由自在に動き回る彼の音楽的幅の広さは半端じゃない。4曲目"Wild Love"のオートチューンはまさに前述のBon Iverを想起させるし、Ariana Grandeをフューチャーした5曲目"Quit"なんかはポストEDMを匂わせる憎いフックの効いたメロディが印象的だ。タイトルトラック"9(After Coachella)"はタイトルもさることながらコミカルなPVが非常に面白い。彼のこうした一種の身軽さは、この作品をより広範な層へと届けることに成功した要因の一つであることは間違いないだろう。
22 No Shape / Perfume Genius
彼のデビューは衝撃的だった。傷だらけのマイク・ハッドレアスが綴る孤独と苦しみを乗せたどうしようもなく美しい音楽は、USインディー界に大きな賞賛をもって迎えられ、彼は早くも自らの世界観を確立することになる。そして、彼の苦しみは制作活動の過程で徐々に浄化されたのだろう、音楽に光を見だした彼は遂に3rdアルバム"Too Bright"でもって、シンセを導入するなどによってより曲調を広げ、より開放的な作品を作り出したのである。そうして新たな扉を開いた彼の次なる一歩が、この"No Shape"なのだ。"形のないもの"を謳った本作のアルバムタイトルが示すように、様々なジャンルの音を駆使しながら、重厚的なサウンドを作り上げている。かつて、哀しみをありのままに歌い上げた孤高のシンガーは、音楽によってその哀しみを癒し、また歌を歌うのである。
21 MODERN TIMES / PUNPEE
ジャパニーズヒップホップシーンの一つの到達点として、これからも引用されるであろう名盤が完成した。近年盛り上がりを見せている日本の「ラップ」シーンと歴史的な「ヒップホップ」シーンを彼は本作で見事に結びつけたのである。2057年を舞台に年老いた彼が回想する、という手法で展開する物語は、まさしく、そんな時代を経てまで語り継がれることであろう。
20 Slowdive / Slowdive
Pitchforkでは8.6点を獲得しBest New Albumに選出され、Stereogumでは2017年の上半期ベストアルバム50選の2位にランクイン、と各メディアが絶賛し、非常に高い評価を得たSlowdiveの新譜"Slowdive"。かつての名作"Souvlaki"のナンバーを思わせるSlowdiveらしさ溢れるドリーミーなトラックから、比較的BPMが早めで疾走感がある新しいSlowdive像を提供した楽曲まで、本作の楽曲の幅は非常に多彩だ。彼ららしさは残しつつも新たなSlowdiveのイメージの提示を試みた今作の試みは新規ファンにも昔からのファンにも必聴だ。
19 Hug of Thunder / Broken Social Scene
彼らの7年ぶりとなる新譜だが、彼らの良さ―大所帯としてのバンドの良さを活かしたダイナミックで壮大な音像が特徴的だ。それは、このメンバーがそれぞれ別のバンドで活躍した空白の7年間を経た後でも劇的に変わることなく、BSSの根底に流れるスピリットは一貫している。Broken Social Scene-分裂した社会状況—というバンド名はまさに、現在の世界的な情勢を言い当てたものであり、そんなバンド名を冠した彼らが、7年ぶりに、この社会の分断化が顕在化している2017年に新譜をリリースするということはまさに運命的な出来事である。
18 Stranger in the Alps / Phoebe Bridgers
こんなにも心を動かされる作品にはなかなか出会うことができないんじゃなかろうか。22歳のSSWのデビュー作"Stranger in the Alps"は、ノスタルジックでセンチメンタル、それでいて未来への希望に溢れている。彼女の優しい歌声はさながら天使のようでありながら、なぜだか私の心突き刺さる。バンド的なダイナミズムと哀愁漂う彼女のボーカルが絶妙に絡み合う"Motion Sickness"や、荘厳で壮大なサウンドに彼女ののびのびとした歌声が乗る"Georgia"など、一曲一曲に物語があり、そのどれもがアルバムの重要な一幕の担い手となっている。
17 Antisocialites / Alvvays
ー「甘酸っぱい音楽でキュン死にしたい全ての胸キュニストに贈る思春期ポップの新たなる金字塔」とはAlvvaysの1stアルバムを評したアマゾンの商品説明の一文であるが、2ndアルバムとなる本作も、相変わらずの「思春期ポップ」さである。一曲目、"In Undertow"のローファイ感満載のポップソングで幕を開ける本作は、"Plimsoll Punks"や"Lolipop (Ode To Jim)"等の疾走感のある軽快なメロディが耳に押し寄せる。にしても、2ndアルバムのアマゾンの商品説明も、「切なすぎる! マブしすぎる! 狂おしいほどの青春の輝きと夏の終わりの儚さが全編を満たす、名作1stすら凌駕した極上アルバムが誕生! 」とテンションが異様に高い(笑)
16 Aftergrow / Asgier
印象的な1stアルバムから3年、彼はフォークミュージックからポップネスとエレクトロへと振り子を振り切りこの"Afterglow"を完成させた。こうしたフォークトロニカからエレクトロ・ポップへの転換は2016年のAnohniやBob Iverが印象的だ。アコースティックなサウンドに、あえて重層的なオートチューンの機械的な声をぶつけることでその声はかえって生々しく迫ってくるというBon Iverの"発明"をしっかりとフォローしている。こうしたフォークミュージックをルーツに持つミュージシャンらの挑戦は、確実に新たな音楽的潮流を生み出すことに成功していると言えるだろう。
15 Mura Masa / Mura Masa
Skrillex、Diploがフェイバリットに挙げる弱冠20歳のマルチインストゥルメンタリストMura Masaの鮮烈なメジャーデビュー作。アルバムのゲストはDamon AlbarnからCharli XCX、そしてASAP Rockyまで、非常に多彩な顔触れがそろう。音楽性の幅も多様で、エレクトロからポップ、ヒップホップを自由に行き来する。にしてもこのアルバムジャケットがめちゃくちゃクール。他のシングルのジャケット写真もシャレオツなのでもしよかったら見てみてください。
14 Life After Youth / Land of Talk
実に7年ぶりの新作である。しかしこれだけの時間を要したのには、様々な不幸な出来事が関係している。そういった出来事は"Life After Youth"という本作のタイトルにも表れている。Best Coastのような素朴さもありつつ、一方でWarpaintのようなドリーミーさも併せ持った本作は、インディーロックのエッセンスが詰まった一枚だ。モントリオールの同郷がこぞって新譜をリリースした2017年、カナダシーンの再興の瞬間に彼女達が居合わせたことを忘れてはならない。
13 Romaplasm / Baths
この"Romaplasm"は、どこか地につかない、夢の中のような世界に聴くものを連れてゆく。一方で、そのサウンドは抽象的であるどころか非常にポップで開放感に溢れており、彼のファルセットは清涼感も感じられる。ちなみにRomanticismー"ロマン主義"の語から得たというアルバムタイトルは、期せずしてMosses Sumneyの"Aromanticism"ー非ロマン主義と対照的なものとなっているのも興味深い。
12 Powerplant / Girlpool
Grilpool2年ぶりとなる2ndフルアルバム"Powerplant"はドラムを導入することで、スカスカだった独特のグルーヴから、よりオルタナ・グランジ的な音像へとアップグレード。一方で癖になるメロディは健在で、本作のオープニングナンバー"123"に顕著なように、不思議とポップなメロディを聴かせてくれる。そして、特筆すべきは11曲目"It Gets More Blue"。静寂なイントロから始まり、サビにノイジーなギターが爆発しエモーショナルな感情を駆り立てる。この感情を揺さぶるメロディーとギターは昨年のMitsukiの"Your Best American Girl"を彷彿とさせる。
11 American Dream / LCD Soundsystem
アメリカンドリームというと、アメリカは「自由」の国であり、国籍や人種、宗教に捉われず、誰にも成功のチャンスがある、すなわち「誰でも努力すれば夢は叶う」ということを意味する言葉として想起されるだろう。アメリカの建国時の起源にかかわるこの考え方は、現在までアメリカのイメージとして保持されている。しかしながら、現実のアメリカ社会がそんな状況ではないというのもまたイメージのつくことであろう。実際に統計的分析でその事実を明らかにした調査もあり、ユートピアとしてのアメリカ像は現在非常に脆いものとなっている。
本作で歌われているのは、一言で言ってしまえばそんな「アメリカンドリーム」の終焉である。ヒーローの死、友情の終わり、老いていく自分、、、彼が本作に纏わせたテーマはあまりにも悲哀なムードに溢れている。マーフィーはアメリカのリアルを見事に映し出し、「踊ってばかりではいられない」というなんとも重たい現実をテーマに作品を作り上げた。そう考えて本作のジャケット写真を見ると、この青空がなんだか不気味に見えてきてしかたがない。
10 Overnight / Heat
Heatとの最初の出会いは2015年リリースのデビューEP"Rooms"であった。同収録の"This Life"や"25"は、ルーリードを思わせるような低くトーキングスタイルの歌声に、ストロークスのようなローファイな音像が特徴的な、退廃的なニューヨーク的なロックンロールサウンドを体現していた。
一方で、デビューアルバムとなった本作は、まずもってシューゲーザー的フィードバック・ノイズの音が耳に止まる。The Pains of Being Pure At HeartやLetting Up Despite Great Faults*2を思わせる、インディーポップとエレクトロニカとシューゲイザーを織り交ぜたサウンドは、前EP以上にポップで、疾走感を伴い、力強いものとなっている。
シューゲイザーやドリーム・ポップのようなノイジーなサウンドにルーリード的なヴォーカルが乗ること自体は、そんなに珍しいことではない。しかしながら、こうしたバンドがむしろポストパンク的影響を強く受けているのに対して、Heatはポップでどこか爽涼なイメージさえも与えてくれる。
そして何よりも特筆すべきことはその楽曲層の厚さである。陳腐な表現で申し訳ないが、真にアルバム通して全曲シングルカットできるほどのクオリティである。疾走感のある"City Limits"、"Sometimes"、"Cold Hard Morning Light"、そしてポップさが際立つ"Lush"、"Long Time Coming"等、聴きどころは非常に多い。ゆーすP的には2017年新人賞はこの作品でした。日本受けするサウンドだとは思うので、来日も期待しつつ。
9 Colors / Beck
ベックは2017年に時代の音としてポップを選び取った。本作"Colors"で鳴っているポップネスは、まさしく2017年にしかありえない、時代の必然性を包摂したポップネスであった。
2011年にFoster The Peopleが"Pumped Up Kids"という最高にポップなアンセムを引っ提げて、ポップとロック、メジャーとインディーの垣根を壊すことに成功してから6年。このFoster The Peopleの功績にもかかわらず、現在アメリカの音楽シーンの垣根は深化してしまっている状況にある。「レッチリを聴く者はKurt Vileを知らないし、Kurt Vileを聴く者はレッチリを知らない」なんて言われるアメリカの分化したシーンの現状を打開することは、確かになかなか難しいのかもしれない。そんな機能分化が進むこの現代社会で、"Colors"は分化を否定することなく、多様性を受け入れ、万華鏡のようなポップアルバムを生み出した。
そんなポップに突き抜けた本作がシーンにいかなる影響を与えるのか。ベックは今年のサマソニへのヘッドライナーとしての出演も決定している。この"Colors"がスタジアムでいかなる音を響かせるのか。非常に楽しみである。
8 ALL-AMERIKKAN BADA$$ / Joey Bada$$
「"To Pimp A Butterfly"以降が始まった」といっても過言ではないのではないだろうか。Joey Badassの2ndアルバムは、一気にポリティカルでコンシャスなものへと飛躍した。
2Pacの影響を受け、TPABを目撃した彼が、いかなる心境の変化をたどったのか私にはわからない。しかしながら、"For My People"や"Land of the Free"で聴くことのできるリリックからは、90年代、そしてケンドリックラマーの影響を感じずにはいられない。
彼は本作で、国家や政治に対して強烈なディスをかます。しかし彼は、その一歩先に踏み込む。つまり、「批判」するだけにとどまらなず、一人一人の行動が、国家や社会といった大きなものを動かし得ると言う。確かに国家だとか社会だとかいうものは、大きく、動かしがたいものとして我々の前に立ちはだかる。しかし、それらは確かに変えることができるということを私たちは歴史的経験として知っている。何かと「〇〇な社会だからしょうがない」だの「日本は〇〇だからしょうがない」だの言って社会や国家のせいにしてしまう私には、心に刺さるメッセージである。
7 Semper Femina / Laura Marling
Julian Baker、Phoebe Bridgers等々、2017年は、多くの新人女性SSWが活躍した年であった。そんな中、6枚目のアルバムとなる本作でLaura Marlingは貫禄を見せつけた。
"Varium et mutabile semper femina"というローマの詩人ヴェルギリウスの「アエネイス」の一節から名付けられた本作"Semper Femina"は、彼女にとっての女性観に焦点を当てた作品だ。上の一節はラテン語「女性は気まぐれで移ろいやすい」という意味らしい。このタイトルが示唆するように、こうした社会的に作り上げられた「女性」のイメージ、いわばジェンダーとしての女性のイメージに対して彼女は問題提起をする。
しかし彼女は、簡単にこの問題を結論づけることはしない。前作で自我を解体させたように、その答えは私たちに委ねられている。私は思慮深く繊細な彼女のこの物語を解き明かすことは未だ出来ていない。そもそも解き明かすことなんて出来ないのかもしれない。しかし、だからこそ、私はこの作品を何度も聞き返すのだろう。
6 Half-Light / Rostam
ペルシャ文字で「رستم」と大きく書かれたジャケット写真が非常に印象的だ。二年前にVampire Weekendからの脱退を表明したRostamのデビューアルバムは、彼のパーソナルな経験が随所に表現された丁寧な作品となっている。彼はイラン移民の両親を持ち、ワシントンで育った。本作のタイトル"Half-Light"は、友人の「『ハーフ』よりも『ダブル』という言葉が一般的になってきている」*3という言葉に由来しているという。
二つのアイデンティティを持つことを「確固たるアイデンティティを有していない」こととして捉えるのではなく、「多様なアイデンティティを有している」こととして捉えることができるのではないか――本作からは、多様なバックグランドを持つ彼のそんな問題提起が感じられる。――多様性は豊かさである―ーバラクオバマ氏は、2008年の大統領就任演説に際し、アメリカ社会の多様性を「強さ」であると述べた。ポストモダンに生きる我々は、多様性にどのように向き合ってゆくべきか。この"Half-Light"は、そんな新しくて古い問いにヒントを与えてくれる。
5 Tremendous Sea of Love / Passion Pit
Passion Pitの音楽は、マイケル・アンジェラコスの人生とは切っても切れない関係にある。これまで、数々の困難を乗り越えてきた彼の想いは、煌びやかなシンセの音とどこか暗く現実的な歌詞に昇華されてきた。
そんな彼がリリースした二年ぶりの新譜となるこの"Tremendous Sea of Love"は、これまでの作品とは異なり、どこかとりとめのないイメージ・抽象的なイメージがつきまとう。彼が本作で提示したのは、彼の人生をめぐるストーリーに留まらない。音楽の販売形態に対する疑念、精神疾患に対する社会的認知の低さ、そして過度のインターネットの発展に対する懐疑。こうした多様で複雑な問題を取り上げる際に、そんな雑多な問題群を作品に反映させる際に、抽象的な楽曲である必要があったのかもしれない。
しかしながら、こうした社会的問題をよそに、ピュアで美しいメロディーが我々の心に突き刺さる。ラストトラック"For Sondra (It Means the World to Me)"では、寂しげなピアノの音に始まり、中盤ではゴスペルをも想起させる荘厳なファルセットが響き渡る。このファルセットの盛り上がりと共に煌びやかなシンセの音が我々に降りかかったかと思えば、再び寂しげなピアノが鳴り響き、最後はマイケルの歌で曲は終わりを迎える。
確かに本作のアプローチは、人生をめぐるストーリーのみが強く反映された作品ではない。しかしながら、やはりPassion Pitの音楽は非常に人間らしさが溢れている。だからこそ、心の琴線にふれ、こんなにも心が動かされるのかもしれない。
4 Dirty Projectors / Dirty Projectors
「共存」という理想の実現は、なかなか難しい。民族と民族、宗教と宗教、そして国家と国家、様々なアクターが対立し分断する現代世界を見ていると、共存よりも対立に目がいってしまう。
そう言えば、The xxの2ndアルバムのタイトルは、"Coexist"ーー共存することーーだ。2012年から5年経った今、インディーロックの衰退に際し、Dirty Projectorsは「共存」を志向した。
2016年の圧倒的ブラックミュージックの優位とロックの衰退は、ロックに改革の必要を迫る出来事だった。偏狭な「インディー」の文脈を脱し、より広くシーンに聴かれうる音楽であるためにはどうするべきかーーそんな課題に対し、Dirty Projectorsは、インディーロックとブラックミュージック、特にR&Bとの共存に活路を見出した。
そんなインディーロックの新たな道筋をつけた本作は、意外と過小評価されてしまっている。確かに、本作に際し、Dirty Projectorsはソロプロジェクトとなった。そのため、インディーロックとR&Bの融合といってもなるほど、ロックらしさ、バンドらしさはあまり感じられない。R&Bとの融合という同様の手法をとったArcade Fireは、"I Give You Power"で見事にバンドのダイナミズムとそれを融合させたが、その後リリースされたニューアルバムでは、この手法は全くもって見られなかった。
インディーロックとブラックミュージックの融合を、インディーの側から仕掛けた彼の問題提起は素晴らしい新譜を生み出した。しかしながらそれ以上に、Dirty Projectorsの次なる一歩が気になって仕方がない。
3 The Business Of Basslines / Hardfloor
私にとってHardfloorは、アシッドハウスの代表選手、そしてテクノの代表選手であった。"Acperience"と"TB Resucitation"が、ロック一辺倒であったゆーす少年をテクノの世界へと引きずり込んだ。ひたすら繰り返されるミニマルなループに、アシッドなベースラインが徐々に高揚感を煽るー確かにテクノの伝統的な手法ではあるが、私にとっては衝撃的なサウンドだった。
そんなHardfloorも今年で結成25周年を迎えた。しかし、彼らのサウンドは相変わらずである。まるでそのまま25年前の世界からやってきたかのような、相変わらずのアシッドな楽曲達が並んでいる。普通に考えれば、25年も経てば、楽曲の性格が変化したり、進化を見せたり、また逆も然りだったりするものである。だけど彼らは何にも変わっていない。進化も退化もしていない。これだけ聞くと、「進化していない音楽を作り続けることに意味なんてあるのか」と問いたくなるかもしれない。しかし、今や進化を無批判に良しとする世界に我々はいない。「進化=善」の図式が成り立つ世の中は失われて等しい。そんな世の中で、ハードフロアがずっと変わらないでいることには間違いなく意味がある。早くもアシッドハウスを完成させてしまった彼らの今は、変化に疲れてしまった我々に安心感を与えてくれる。
2 I See You / The xx
インディーロックにとっての2017年は、1月1日ではなく、このThe xxの"I See You"が発売された1月13日に始まったと言っても過言ではない。2016年の年間ベストから閉め出されたインディーロックがいかにして再び大成するかー"I See You"はそんな大きな課題を見事に乗り越えた。
アンダーグラウンドシーンから成長してきたThe xxは、本作でインディーロックと「ポップネス」をシームレスに見事に結びつけた。このことは、ダリル・ホール&ジョン・オーツのI Can't Go For That (No Can Do)をサンプリングした"On Hold"が端的に示すところであるが、この変化に果たしたジェイミーの貢献は非常に大きい。ジェイミーが2015年にリリースしたソロアルバム"In Colour"で見せたミニマルなインディーロックとエレクトロ、ハウスの交配的アプローチが、The xxの「クロスオーバー」的なあり方を可能としたのである。
フジロックのセカンドヘッドライナーを見事に勤め上げた3人は、3rdアルバムにして早くも、その人気を決定的なものとした。この人気をまさに獲得していくその過程を、我々は幸運にも目撃することができた。三年連続の来日とは、本当に嬉しい限りである。まだThe xxの進化を体験していないというあなた、2月の来日公演に是非足を運んでみては*4
1 Sleep Well Beast / The National
徐々に徐々に、一歩ずつ、The Nationalはそうやって進化してきた。粗削りな部分もあった楽曲は(それはそれでもちろん魅力的だが)アルバムのリリースを経るたびに洗練さを増し、リード曲とそうでない曲との間にクオリティの差があったアルバムは徐々に全体としての完成度をブラシアップさせてきた。
そうした中で、The Nationalとしての魅力が失われることはなかった。マット・バーニンジャーの低く呟くようなボーカルに叙情的なメロディーラインが合わさる彼らの音楽はずっと、私達の心に寄り添い続けてきた。
そんな彼らのニューアルバム"Sleep Well Beast"は、彼らのデビュー来の進化と個性が、最大公約数的に見事に結びついた作品だ。精密に構築されたアレンジと鋭いアグレッシブなギターが見事に溶け合い、静と動、光と闇が交差するように躍動的に私達に迫り来る。
確かにThe Nationalというバンドは地味だ。間違っても初めて洋楽を聴く人にオススメできるような代物ではない。しかし、日常に寄り添う音楽とはそういうものだ。日常に分かりやすい何かは存在しない。複雑にからまり合い、微妙に、はっきりとしないうちに日々は過ぎていく。そんな日常を、"Sleep Well Beast"はほんの少しだけ、彩ってくれる。そして、確かに少しだけかもしれないが、ずっとこれから先も、日々を彩ってくれるような予感がする。
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さて、50枚、紹介してきました。全部をきちんと紹介できませんでしたが、とりあえずはこんなところでお許しを。さて、2018年が始まって一か月以上が経ちました。2018年の音楽シーンはどうなるでしょうか。何よりも注目はヒップホップシーンの動きでしょう。Migosの来日*5にチャンスのサマソニ出演、(さらにフジロックにも大物ラッパーが…?*6とヒップホップが日本でついに花開こうとしています。そしてサマソニですが、トリにベックとノエルを置き、QOTSAやSt. Vincent等、豪華なラインナップが発表されています。そして注目なのが、ベック、QOTSA、St. Vincent、この三組すべてが昨年2017年に来日しているということ。これは、アーティスト側が去年のギグに手ごたえを感じていることの所為といえるでしょう(QOTSAについてはロック復権をかけたQOTSAと僕らの野望ーDisc Review : Queens of the Stone Age / Villains - ゆーすPのインディーロック探訪で、ベックについては"Colors"のすべてーLive Report : Beck 2017 10/24 @ 新木場スタジオコースト - ゆーすPのインディーロック探訪で紹介しています)。去年の来日公演での私たちの想いが少しは通じたんじゃないかなと、少しうれしく思ったり。「日本の音楽シーンのガラパゴス化」が叫ばれて久しいですが、2018年は少しは良くなるんじゃないかなと楽観的な想いもありつつ、まあそんな大局的なことはいいとして、いい音楽と新しい出会いがたくさんある一年であることを何よりも願いつつ、遅くなりましたが、そんなことで、2017年の総括とさせていただきます。ではでは。