ゆーすPのインディーロック探訪

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2010年代ベストアルバム50選 PART5:TOP 50 ALBUMS OF 2010s [10-1]

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※PART1(50位-41位)はこちら↓

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※PART2(40位-31位)はこちら↓

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 ※PART4(20位-11位)はこちら↓

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やっと仕上がりました…

だいぶ空いてしまいましたが、10年代ベスト最終回のトップ10です。

 

TOP 50 ALBUMS OF 2010s [10-1] 

10 The Vaccines / What Did You Expect from the Vaccines? (2011)

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1991年のNirvanaNevermind”、2001年のThe Strokes”Is This It?”ーーロックを救うヒーローは10年に一度やって来るという。この法則に習えば、2011年にもロックシーンを救ってくれるニューヒーローが出現するに違いないーーそうしてメディアに新世代の希望として担ぎ上げられたのが、ロンドンを拠点とする4人組The Vaccinesであった。

しかし、彼らはそんなこと御構い無しに、自分達のやりたい音楽を貫き通した。デビューアルバムのタイトルは「何をヴァクシーンズに期待した?」である。軽快なポップナンバーであるオープニングトラック”Wreckin’ Bar”を聴けば、NMEがなんて言ってるか、なんてことは全く気にならなくなるはずだ。

アルバムは全12曲で36分。ポップでキャッチーなメロディーがこれでもかと詰まっている。ビーチ・ボーイズのような煌びやかなポップネス、クラッシュのような駆け抜けるパンクネス、ジザメリのような甘酸っぱさ、ストロークスのようなローファイ感、ありとあらゆるエッセンスが凝縮された一枚となっている。そしてそれらを小細工なしでストレートに、そしてクールに表現している傑作だ。

 

9 Avicii / True (2013)

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一瞬の享楽に全てをかけたEDMが一過性のムーブメントとしてあまりにも一瞬の間に過ぎ去ってしまったのは皮肉なことかもしれない。だが、一瞬で全てが過ぎ去ってゆくというEDMの精神がSNS時代の若者の時代精神と見事に合致したこともまた確かである。Aviciiの"True"は、そんなEDMシーンに燦然と煌めく金字塔的マスターピースだ。

ただ、本作の魅力はEDMの枠をはるかに凌駕する。アコースティックギターのイントロに始まる"Wake Me Up"を筆頭に、享楽的でないメランコリックな一面がふと顔を覗かせる。その意味で多ジャンルとのクロスオーバーを積極的に推し進めるポストEDMという新たなEDMのあり方への方途を開いた作品でもあり、そのメンタリティーは今もなおシーンに息づいている。EDMは今や特定のDJ群を指す固有名詞ではない。いつの間にかそれは形容詞となり、今ではポップ、ロック、ヒップホップ、あらゆるジャンルにおけるパートナーだ。

 

8 Fucked Up / David Comes to Life (2011)

Fucked Up - David Comes To Life (2011, Vinyl) | Discogs

がなり立てるボーカル、ソリッドなギター、華のあるコーラス、あるいはまた、ダミアンのプロレスラーかのようなステージ上での振る舞い、70分超に及ぶロックオペラの構想、反サッチャーイズムというポリティカルなアティチュードーー一見するとそれらはひどくアンバランスで、この雑多さが彼らのポテンシャルを台無しにしているように思えてしまう。真面目にインディーロックをやればモデスト・マウスにだって、傍若無人にパンクロック方面に突き抜ければフガジにだってなれるのに、どうして一体彼らはインディー然とした優等生的なキャッチーなリフにダミアンの濁声を重ねてしまったのか。UKインディーロックを思わせる爽快でポップなリフに乗せて大がかりなロック・オペラを作り上げてしまったのか。

しかし、それゆえにFucked Upはパンクの大胆さとインディーロックの繊細さの両方を兼ね備えた稀有な存在として、独自の立場を確立させることに成功した。インディーロックフリークは"Queen of Hearts"のトリプルギターのアンサンブルとコーラスの掛け合いに、ポップパンクキッズはとびきり爽快な”Turn the Reason”のギターリフに、ハードコア好きは"Remember My Name"後半のバンドのダイナミズムが爆発する60秒に、そしてコンセプチュアルなアートロック好きはデヴィッドとヴェロニカによる愛と反抗と喪失と希望の物語に、それぞれ耳を奪われること間違いない。

 

7 Smith Westerns / Dye It Blonde (2011)

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一見すると多くのインディーロック同様、ドリーミーでローファイな一種現実逃避的な音楽を志向しているように思えるのだが、実のところ彼らは相当な野心家であったようだ。確かに本作の音楽的基盤はメロウなインディーロック的サウンドであり、彼らがThe DrumsやGirlsの系譜に位置付けられるような立ち位置にあることは間違いない。だが、そんなドリーミーな音像に身を任せて浮遊していると、ふと、アンセミックなフレーズが惜しみなくさらりと歌い上げられる。曲の前半を聴いている限りはよくあるインディーロックソングだとしか思わないかもしれないが、Dance Away、All Die Youngのラスサビなんてスタジアムにぴったりのスケール感だ。そして、全体的なローファイ感とリバーブのかかったギターのせいで見過ごされやすいが、メンバーのキャメロンが公言しているように、歌い方、メロディーラインなどはオアシスから大きな影響を受けており、その他ボウイやT. Rexといったグラムロックの影響も感じられる。

サマーソニック2011で初来日した時、オープニングアクトのねごとが大盛況の客入りだったのに比して、残念ながら、ソニックステージは客が100人もいないようなガラガラ具合だったことをよく覚えている。確かにヘロヘロでチープな音だったかもしれない。だが、社会に押し潰されそうになりながらも、精一杯自分の歌を歌う彼らの姿に、ちょっとばかり感傷的になってしまった自分がいた。2014年にバンドは解散となったが、それもそのはず。彼らの痛々しいほどに瑞々しい音楽は、その一瞬にしか作れない音楽だ。人生は一度だし、若い時期も一度きり。そんな風に思いながらDye It Youngを聴き直すと、どうにも心が締め付けられてかなわない。

 

6 Spiritualized / Sweet Heart Sweet Light (2012)

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もうかれこれ25年以上にも渡るキャリアの中で、Spiritualizedの特徴的なサウンドは多種多様に及んできた。Spacemen3の面影の残る退廃的なノイズミュージックから神秘的なゴスペル・ブルース、さらにはローファイなギターを掻き鳴らすロックンロールまで、その射程は非常に幅広い。ドローン・シューゲーザー的な要素が色濃いLazer Guided Melodies、フィルスペクターの影響を感じさせる壮大なゴスペル・ブルース宇宙遊泳・Let It Come Down、ヴェルヴェッツ・ライクなドラッギーでノイジーサウンドが顕著なAmazing Graceといったように、その特徴はアルバム毎に変わってくる。

ただ、前作Songs In A&Eに関して言えば、サウンドがどうこうというよりは、重篤な病に冒され、生死の境をさまよったジェイソン個人の境遇に強く影響された作品であった。そして、本作Sweet Heart Sweet Lightもまた、死を身近なものとして体験したジェイソン自身の体験に強く影響を受けた、希望の光に満ち溢れた世界を歌った作品となった。

こうした彼のパーソナルな経験から、本作はSpiritualized史上最もとっつきやすい、ポップで希望に満ちた美しく明るい音像で彩られている。これまでにないクリアなオーケストラライクな旋律にはじまるToo Late、囁くように語りかけるジェイソンの歌声と美しいアルペジオのハーモニーが見事に調和するFreedom。あるいは小鳥のさえずりから始まるLife Is a Problem、子どもの「ふふっ」という笑い声から始まるSo Long You Pretty Thing。そのどれもが生きることへの喜びや希望に満ち、美しく、躍動的だ。かつて「ドラッグあればそれだけでいい」と歌ったジェイソンが、生死をさまよう経験を経て、希望を歌う。そこにいるのは、ノイズの波に溺れるジェイソンでも、ドラッギーなロックンロールにのまれるジェイソンでもない。感情を飾ることなく素直に歌う、あるがままの人間らしいジェイソンの姿だ。

 

5 Chance the Rapper / Coloring Book (2016)

Chance the Rapper: Coloring Book Album Review | Pitchfork

"Music is all we got"――音楽こそが全てだ、と彼は歌った。そんな彼が、グラミー賞の新人賞を獲得し、ロラパルーザを満杯にした。チャンスは、「音楽が全て」という当たり前のことを私たちにふと思い出させた。チャンスのそんな単純な祈りはいつの間にか、私たちの祈りとなっていたのであった。

本作“Coloring Book”は圧倒的ポジティビズムに彩られている。それはKanye Westを迎えたアルバムの一曲目"All We Got"でのシカゴの子供達のコーラスをフューチャーした多幸感溢れるオープニングの演出にして明白である。本作はヒップホップシーンにありがちな攻撃的・反抗的メッセージを強調するわけでも、自らの成功を誇示するマッチョイズムに陥るわけでもない。チャンスはただ、彼のホームタウンであるシカゴの現状を変えようと、平和を、希望を歌ったのである。シカゴは、シャイラクというシカゴとイラクをもじったスラングで呼ばれるほどに治安の悪化が叫ばれており、2011年、2012年のシカゴで殺害された年間死亡者数は、イラクアフガニスタンに派兵された米兵の同年の死亡者数を上回ったという。実際にそんな時代に呼応する形で出てきた音楽はチーフ・キースを代表とするような「ドリル」と呼ばれる暴力的なサウンドであり、シカゴのギャングスタラップであった。しかしチャンスは違った。彼はそんなシカゴの現状を変えるために希望を歌ったのだ。

先鋭化する黒人問題に対して攻撃的な姿勢が横行し、分断と衝突があらゆる場所で発生した2016年に、チャンスは決して誰かを攻撃することはなかった。チャンスはゴスペルを援用し、日常の些細な喜びをただ音楽に込めて、信じて行動することだけでちゃんと社会を変えることができるということをポジティブに、肯定的に示したのである。

 

4 Kendrick Lamar / To Pimp A Butterfly (2015)

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黒人差別の歴史、商業音楽の弊害、アメリカ社会の現実、そして、ケンドリック自身の私的な経験と哲学――To Pimp a Butterflyには、これらすべてが詰まっている。

脱税容疑で捕まったウェズリー・スナイプスをもじって悪意のある音楽業界(あるいは税金をかすめ取ろうとする国家権力)の現状を告発したWesley's Theoryにはじまり、資本主義大国アメリカの歴史が先住民やアフリカンアメリカンの搾取の上に成り立ってると糾弾するFor Free?(「おいアメリカめ、アメリカを豊かにするために黒人が綿花を摘んできた歴史を忘れたのか」)、18世紀の黒人奴隷をテーマとしたTVドラマ「ルーツ」の主人公クンタ・キンテをもじり、ケンドリックの足を切り落とそうとする白人社会・消費主義を論うKing Kunta、と冒頭3曲で早くも大量のインテリジェントなメタファーに驚かされる。

一方で、アルバムの後半になるにつれ、次第にケンドリック個人の思いが明らかになっていく。ケンドリックが「お前を愛するのは難しい」と自分自身を強烈に責め立てるuは、ステージで偉そうに説教をしておきながら自身の妹が10代で妊娠してしまったこと、ツアー中に殺された友人の死に目に会うことすらできなかったこと、などを明らかにし「無責任で自己中で現実から目を背けるクソ野郎だ」と徹底的な自己嫌悪を露にする。にもかかわらず、Alrightでは「なんとかなる、大丈夫だ」と歌い、iでは「自分を愛することが大事なんだ」と歌う。ケンドリックは、決して過去の失敗に囚われるだけではないし、だからといって、能天気に無責任に歌うわけでもない。苦しい経験を経て、それでもなんとか諦めずに前を向いて、「なんとかなる、大丈夫だ」と歌うのである。

社会的な問題が発生すると、我々はともすればその原因を社会や環境というマクロな視点でとらえがちだ。だが、それによって、ミクロな個人の視点が抜け落ちてはいないだろうか。差別、貧困、メンタルヘルス、環境破壊――現代社会に問題は山積みだ。だが、大きく「差別」と括って考えているばかりでは、問題の本質は見えてこない。その「差別」という言葉の向こうに、実際に苦しみながら日常生活を送っている個人がいる。まず自分を見つめなおせ、と、自分を愛することから始めるんだ、と歌うケンドリックのメッセージは、現代社会の諸問題を見つめなおすための示唆に富んでいる。

 

3 Vampire Weekend / Modern Vampires of the City (2013)

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タイトルとジャケット写真からして、何かが違う。これまでのVampire Weekendの雰囲気と明らかに違う。1stアルバムで早くも「彼ららしさ」を確立したVampire Weekendであったが、ここではその「彼ららしさ」が全く感じられない。

1stアルバムで彼らが見事に成し遂げたこと、それはアフロビートをポップに、現代的にアップデートしたことだった。アフリカンでエスニックな雰囲気とバロックポップ、チャンバーポップ的な上品さを見事に結びつけ、彼らはUSインディーシーンに新たなる息吹を吹き込んだのである。

本作3rdアルバムを聴いてみると、大きくそのサウンドが変化していることがわかる。ご機嫌なポップチューン、アフロビートが特徴的なエスニックな曲展開は鳴りを潜め、全体的にテンポはスローダウン&レイドバックしており、ダークでヘヴィーな印象が強くなっている。そして、音像はさらにハイブリットなものとなっており、実験的でこれまでの型にはまることのないサウンドへ進化を遂げている。一方で楽器の編成としてはよりミニマルになっているとも言える。ギター、オルガン、ハープシコード、そして時折のサンプリング、こうした音像は、前作までの「軽快さ」と対照的な「高尚さ」を思わせる。そして、その歌詞を追っていくと、「宗教」が一つのキーワードとなっていることに気づかされる。コーランを引用したUnbeliever、ユダヤ教ヤハウェ神をもじったYa Hey、あるいはピューリタニズムとアメリカの歴史を叙述したHudsonなど、その引用の仕方は非常に多面的で、Vampire Weekendの視野の広さに改めて感心する。

とはいっても、Vampire Weekendの変わらぬ人懐っこいメロディーセンスは健在である。オルガンのメロディーが心地よいUnbelievers、アンセミックなDiane Young、軽快なリズムが楽しげなFinger Back。様々なメタファーをちりばめ、現代アメリカ、あるいは世界が抱える問題に迫ろうとしながらも、ポップなメロディーを忘れない――Vampire Weekendのやろうとしていることはひどく困難な試みに思えるが、それを何処吹く風とやってのける。バンドの高いバイタリティーを思い知らされる、まごうことなき傑作だ。

 

2 Two Door Cinema Club / Tourist History (2010)

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爽快なダンスビート、情緒的なギターリフ、そしてとびきりポップなメロディライン。その全てが新鮮だった。私はすぐに彼らの虜になった。どこかちょいダサ感が残るところも良い。クールなバンドロゴの後ろに猫がいるジャケット写真然り、What You Knowのバレリーナが踊るなんとも言えないPVの空気感然り、絶妙に私のツボを突いていた。

疾走感のあるCigarettes in the Theaterに始まり、繰り返しのサビのメロディラインが耳に残るCome Back Home〜This is the Life、そして中盤の畳み掛けるかのような極上ポップチューン4連打、そしてEat That Up, It’s Good For You、You’re Not Stubbornで大円団。全10曲30分弱、ポップなフレーズが目白押しで、どの曲から聴いても一瞬で彼らの世界に引き込まれることは間違いない。

さらに、彼らの魅力は何といってもライブパフォーマンスにある。彼らがたびたび来日してくれたおかげで、私は何度もライブを観ることができた。そのどれもがとても印象深い。I Can Talkで輪になって合唱した2011年のサマソニ、凄まじいまでの盛り上がりでモッシュピットの圧が大変なことになっていた2012年の単独公演、ワイングラス片手にセットアップを決め込んでスタイリッシュなモード全開だった2013年のサマソニなどなど、毎回異なる姿を私たちに見せてくれた。

その意味で、大切なバンドは数多あれど、私の10年代を常に支えてくれた、一番の思い出をくれたバンドは間違いなくTDCC一択だ。これ以上書くと個人的な思い出語りをしてしまいそうなので、こんなところで終わりたい。

 

1 Kanye West / My Beautiful Dark Twisted Fantasy (2010)

Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy | Album Review | Consequence  of Sound

“私の”物語ーー何よりも本作は母を失ったカニエが自らを取り戻すための一枚であった。

“美しき”物語ーー幽玄なジャスティンヴァーノンのファルセットが響き渡るLost in the Worldなど、本作は美的に卓越した一枚となった。

“ダークな”物語ーー冒頭Dark Fantasy("Me drown sorrow in that Diablo")からMonster("Sasquatch, Godzilla, King Kong, Lochness, Goblin, Ghoul")、Devil In a New Dress("We love Jesus but you done learned a lot from Satan")まで、常に「悪魔」の影が付き纏う一枚となっている。

“ねじれた”物語ーKing Crimsonの21st Century Schizoid ManやAphex TwinのAvril 14thなど、プログレからIDMに至るまで多様な音楽をサンプリングした一枚である。

5作目にしてKanye Westが作り上げた「物語」は、とてつもなく壮大で、その全貌を理解するのは容易いことではない。その土台となっているのはヒップホップ的精神であって、オートチューンに彩られた前作808s & Heartbreakで一度後景化したそれが復活していることは確かである。だが、そこで用いられるサンプリングの引用元はKing CrimsonBlack Sabbathといった往年のロックから、テクノモーツァルトとも呼ばれるAphex Twin、そしてインディーミュージックの新星Bon Iverに至るまでの節操のなさ。そして、ゲストにJay Z、Rick Ross、Rhianna、Alicia Keys、Drake、そしてElton JohnやJustin Vernonまで、豪華なメンツをそろえておきながら、歌っているリリックはどうしようもないものばかり。やはり、この物語はひどく捻じれて一筋縄では行かなそうだ。

だが、彼は、どうしようもなく雑多な要素を一つの「大きな物語」として、一枚の作品に、見事にまとめ上げた。ロックかヒップホップか、アンダーグラウンドかポップか、などという区別は、フェニックスに生えた羽を気にも留めないカニエの前では全くの無意味であった。「大きな物語」が終焉を迎え、無数の「小さな物語」があふれかえる世界で、彼はあくまでも「大きな物語」に――確かにそれはとんでもなくカオスでいびつかもしれないが――拘ったのである。

かつて、アメリカは「人種のるつぼ」と呼ばれた。それは、様々な民族がともに暮らす中で一つの共通の文化を生み出していく状態を指していたが、そんなことは今や幻想(それも危険な幻想)でしかないことは明らかである。今や、アメリカは「人種のサラダボウル」だ。それは、様々な民族・文化が並立共存している状態を指しており、集団的アイデンティティを残しつつ共存していく、という理念が前提にある。カニエが本作で作り上げた「物語」は、実に多様な要素がごちゃ混ぜになっているが、それらは決して混じり合って調和しておらず、「サラダボウル」的な共存を成している。

2010年代のディケイドの始まりにカニエが生み出した物語は、新たな時代の幕開けを予感させるとともに、ひとつの「共存のモデル」をも提示した。だが、カニエの昨今の言動にはかなり危うい部分が多いこともまた事実。本作が有する音楽的価値は、もしかすると、5年後には180度変わっているかもしれない。

 

 

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以上、2010年代ベストアルバム50選でした。いやはや、本当に時間がかかってしまった…。特に最後のパートは、果たしてカニエを1位にしていいものか、とだいぶ悩んでしまいました。近年のカニエの言動にはほとんど賛同できないので、自信をもってこいつが1位だ、とは言えませんし、まだカニエを1位に置いたことにモヤっとしています。でも、やっぱりこの作品自体はとんでもなくて、2010年代を象徴しているものである、という気持ちも確かなので……なかなか難しいですね。

さて、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。言うまでもないですが、本ランキングはあくまで個人的な評価であって、 絶対的な良し悪しを主張するものではありません。

ではまた。今後とも本ブログをどうぞよろしくお願いします。

 

 

[TOP 50 ALBUMS OF 2010s [10-1]]

10 The Vaccines / What Did You Expect from the Vaccines? (2011)

9 Avicii / True (2013) 

8 Fucked Up / David Comes to Life (2011)

7 Smith Westerns / Dye It Blonde (2011)

6 Spiritualized / Sweet Heart Sweet Light (2012)

5 Chance the Rapper / Coloring Book (2016)

4 Kendrick Lamar / To Pimp A Butterfly (2015)

3 Vampire Weekend / Modern Vampires of the City (2013)

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