音楽好きのためのTHE IDOLM@STER入門
どうもゆーすPです。今回は、祝サブスク解禁(&合同ライブ開催直前特集)ということで、アイマスをほとんど知らない、あるいはアイマスに苦手意識のある人に向けて、おすすめのアイマス曲を10曲紹介したいと思います。
個人的には、アイマスは閉塞的、あるいは独特で近寄り難いといった印象を持たれているように思われている気がしているのですが、音楽に関して言えば、全くそんなことはなく、音楽好きにも自信を持ってオススメできるクオリティの高い楽曲も多く存在します。(一方でファンベースの異様さであったり、お世辞にもクオリティの高いと言えない楽曲がたくさんあることも確かです。)
今回選んだ楽曲は、記事タイトルが示しているように、「音楽好き」をターゲットにしています。したがって、単純にポップでわかりやすい曲というよりは、たくさんの音楽に触れてきた方にもオススメできる曲、という観点から楽曲を選出しています。したがって、「入門」と冠してはいるけれども、有名な曲、人気な曲、を並べているわけではないのでその点ご注意いただけたらと思います。
最後に、曲のチョイスは個人的な思い入れをできるだけ排して公平を期そうと努力したつもりですが、それでも私の個人的な好みが多分に反映されてしまっています。全ブランド最低一曲は取り上げましたが、765Pゆえ765、ミリオンが多くなってしまっているのでその辺はどうかご容赦を。内訳は765×4曲、デレ×1曲、ミリ×3曲、SideM×1曲、シャニ×1曲という感じ。そして、以下で取り上げる10曲は1000曲以上ある膨大なアイマス楽曲のほんの一部でしかありません。もし、ほんの少しでもアイマス楽曲に興味をもっていただけたなら、是非、他の楽曲にも手を伸ばしてみてください。きっとあなたのとっておきの楽曲が見つかるはず。
- 1. Miracle Night / 天海春香(中村繪里子)、菊地真(平田宏美)、双海亜美 / 真美(下田麻美)、水瀬伊織(釘宮理恵)
- 2. Pon De Beach / 我那覇響(沼倉愛美)
- 3. Kosmos, Cosmos / 萩原雪歩(落合祐里香・浅倉杏美)
- 4. LEMONADE / 萩原雪歩(浅倉杏美)、三浦あずさ(たかはし智秋)
- 5. Twilight Sky / 多田李衣菜(青木瑠璃子)
- 6. ジレるハートに火をつけて / 灼熱少女(田中琴葉(種田梨沙)、大神環(稲川英里)、高坂海美(上田麗奈)、所恵美(藤井ゆきよ)、宮尾美也(桐谷蝶々))
- 7. アイル(Harmonized ver.)/ 伊吹翼(Machico)、ジュリア(愛美)、真壁瑞希(阿部里果)
- 8. 産声とクラブ / 箱崎星梨花(麻倉もも)、三浦あずさ(たかはし智秋)、ロコ(中村温姫)、高坂海美(上田麗奈)
- 9. We're the one / C.FIRST
- 10. Give me some more... / アルストロメリア
1. Miracle Night / 天海春香(中村繪里子)、菊地真(平田宏美)、双海亜美 / 真美(下田麻美)、水瀬伊織(釘宮理恵)
[初出:THE IDOLM@STER PLATINUM MASTER 01 Miracle Night (2016)]
正直、最初に聴いた時は今更EDM?と思った。2016年、欧米シーンにおけるメインストリームはEDMからヒップホップに移行しきっていたし、日本においてすらDragon NightやR.Y.U.S.E.I.などのJPOP×EDMブームはひと段落していた時期であった。だが、きちんと聴けば、ここでのEDM要素が単なる流行要素の取り入れではないことは明らかである。AviciiのWake Me Upを思わせるアコースティックギターの音色が彩るイントロ〜Aメロ、そしてまるでAlessoのHeroes(we could be)のごとくアンセミックで美しいリフ。これらの要素が見事にアイドルソング、ポップミュージックの鋳型に落とし込められ、至高のダンスポップミュージックが展開される。プラチナスターズのCDシリーズは同曲はじめ「アマテラス」や「Happy」など癖のない上質なポップミュージック揃いなので、アイマスの最初の一曲に併せてこれらもオススメしたい。
2. Pon De Beach / 我那覇響(沼倉愛美)
[初出:THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 3 02 我那覇響 (2015)]
我那覇響の夏らしい雰囲気が全面に表現された一曲で、一聴しただけでハマるポップで楽しげなメロディー・歌詞が特徴的なナンバーである。だが、メロディーや歌のみならず、そのビートに注目すると、また違った魅力に気付かされる。イントロの入りこそアコースティックギターを軸にしたシンプルな作りであるが、曲が進むにつれそのビートは複雑さを増し、2番の冒頭ではなんとアーメン・ブレイクが披露されるというフリーキーっぷり。また、2番冒頭以降も、歌詞に合わせてキック、スネア、手拍子と目まぐるしくビートの音が移り変わり、ラスサビではタイトなビートから一転、ヒップホップライクなホーンが開放感のある大円団を演出する。爽やかな夏ソングに一見不釣り合いなドラムンベース要素でも、総じて聴くと、これが不思議と上手くいっているのだからイノタク*1の手腕は流石である。他にも、我那覇響の楽曲はキャラソンの常識を覆すNext Life(ボーカルレスのサイケデリックトランスが大胆に展開される)など、テクノ好きには見逃せない曲揃いなので要チェック。
3. Kosmos, Cosmos / 萩原雪歩(落合祐里香・浅倉杏美)
[初出:THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 09 萩原雪歩 (2007)]
Kosmos, Cosmosは、初期Perfumeと共に、ポスト渋谷系×テクノポップをアイドルという媒介項でもってポップミュージックシーンに持ち込んだ00年代半ばのJPOPシーンを語る上では欠かせない一曲だ、というのは言い過ぎだろうか。オーソドックスな四つ打ちをベースとするダンスミュージックに囁くように儚いボーカルが乗り、それをチップチューンチックなリフが彩る。それはまるでコンピューターシティとエレクトロワールドをいいとこどりしたかのよう。あまりPerfumeを引き合いに出しすぎるのも良くないと思いつつ、当時においてPerfumeとアイマスが(かなりの部分で)同じ根っこを共有していたということはきちんと語り継がれるべきことだろう。
2011年まで萩原雪歩のCVを担当していた落合祐里香によるヴァージョン。
2011年~現在まで萩原雪歩のCVを担当している浅倉杏美によるヴァージョン。実は浅倉杏美歌唱のフルヴァージョンの音源化はこの2015年のM@STER ARTIST3を待たねばならなかった。
4. LEMONADE / 萩原雪歩(浅倉杏美)、三浦あずさ(たかはし智秋)
[初出:THE IDOLM@STER MASTER PRIMAL POPPIN' YELLOW (2017)]
KIRINJIの堀込高樹氏による作詞作曲で、まさかのキリンジ×アイマスのタッグが実現。低音のベース音と妖艶なメロディラインに甘美なボーカルが乗る、アイマス楽曲としてはまさに異質の楽曲に仕上がっている。その歌詞もいつもの高樹節で、冒頭から「手榴弾のピンを抜くような顔で」とGrenadeとLemonadeでの言葉遊びに始まり、「明日はどっちだ タッチはあだち」、「涙で洗うポストハーヴェスト」といった独特のワードセンスが光る。なお、同曲が収録されているPOPPIN' YELLOWには、他にもCymbalsの矢野博康やたむらぱんが手掛けた曲などが収録されており、これまでのアイマスの音楽スタイルから大きく方向転換した一枚となっている。興味があればぜひアルバムを通して一聴を。
KIRINJIによるセルフカバー。ボーカルは弓木英梨乃で、ときおりライブで披露していた模様。
5. Twilight Sky / 多田李衣菜(青木瑠璃子)
[初出:THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 012 多田李衣菜 (2013)]
お次はシンデレラガールズからの一曲。(にわか)ロック好きという彼女のキャラクターを存分に生かしたこれぞJロックなナンバーで、ロックの初期衝動を感じさせるどこか拙さの残るギターソロと、エモーショナルさ全開な泣きメロが00年代後半~10年代前半の邦ロックの王道を見事に体現。オチサビ後のCメロからAメロのメロディラインが展開される様は圧巻なので、是非ともフルで最後まで聴いてほしい一曲だ。
6. ジレるハートに火をつけて / 灼熱少女(田中琴葉(種田梨沙)、大神環(稲川英里)、高坂海美(上田麗奈)、所恵美(藤井ゆきよ)、宮尾美也(桐谷蝶々))
[初出:THE IDOLM@STER LIVE THE@TER HARMONY 06 (2014)]
お次はミリオンライブから。The DoorsのLight My Fireをもじった曲名が印象的な「ジレるハートに火をつけて」(通称ジレハ)は、The Doorsよろしく昭和の歌謡曲を想起させるクラシックなナンバー。懐かしい歌謡曲テイストなスタイルはアイマス楽曲の根底にあるイズムが何であったかを思い出させてくれる。ただ、そうしたスタンダードなナンバーでありながら、譜割りのリズム感は独特であり、これによって耳に残る特徴のある楽曲に仕上がっている。なお、ジレハはミリオンライブというコンテンツにとって非常に重要な位置を占める楽曲となっており、過去のライブでの披露実績をみるとそのことがよくわかる。特に4thライブ〜5thライブでのパフォーマンスはミリオンライブ史に残る名シーンとなっているのでこちらも併せてチェックしたい。
7. アイル(Harmonized ver.)/ 伊吹翼(Machico)、ジュリア(愛美)、真壁瑞希(阿部里果)
[初出:アイドルマスター ミリオンライブ! 3 オリジナルCD付き特別版 (ゲッサン少年サンデーコミックス) (2016) ※同CD収録は伊吹翼ソロver。Harmonized verはダウンロード限定で3rdライブのパフォーマンス後に配信された。]
アイルは、ミリオンライブという物語が生み落とした奇跡のような一曲だ。ジュリアが奏でるnano.RIPE直系のアルペジオに、真壁瑞希の美しいコーラスが、伊吹翼のアイドルらしくありながら力のこもったボーカルが、ハーモニーを奏でる。それは流星群に始まったジュリアとnano.RIPEの邂逅が、アイドルとロックの出会いが、たどり着いた一つの到達点である。
声優がキャラクターを背負ってギターを携えてステージに上がるーー門外漢からすればたかがそれだけのことで、と思うかもしれない。だが、その光景は、界隈に間違いなく大きな衝撃を与えた。その光景は、バンドリという2010年代後半を代表するコンテンツを生み、ここからいくつものメディアミックス作品が誕生した。そうした10年代の想像力の種を蒔いたジュリアが、伊吹翼と真壁瑞希という最高のパートナーと出会い、三人で音を奏でる。アイルはジュリアの物語が他でもない、アイドルの物語でなければならなかったことを端的に示している。
8. 産声とクラブ / 箱崎星梨花(麻倉もも)、三浦あずさ(たかはし智秋)、ロコ(中村温姫)、高坂海美(上田麗奈)
[初出:THE IDOLM@STER MILLION THE@TER SEASON CLEVER CLOVER (2022) ※ただし配信販売は2021年開始。]
2021年、ミリオンライブは佐高陵平という才能と出会い、新たな局面へと歩みを進めた。佐高氏の手がける楽曲として"ReTale"、"ゆえに…なんです"に続き3曲目となる産声とグラブは、実に挑戦的なエレクトロニカチューンで、アイマス楽曲の裾野を一気に広げることとなった。OvalやAutechreを思い起こさせる不規則なクリック、グリッヂサウンドに、三拍子で展開されるメロディー。これを美しいピアノ、ヴァイオリンのオーケストラルなサウンドが彩り、エレクトロニカとクラシックが見事に融合する。それはまるでスティーブ・ライヒのMusic for 18 Musiciansであり、The Album LeafやFenneszの息づかいをも感じさせる含蓄の深さ。現代音楽×アイドルの先駆者であり、ライヒを参照元として公言していたMaison book girlが活動を休止した2021年という年に、この産声とクラブが世に出たことは、何という偶然か、現代音楽×アイドルの可能性が失われていないことを示しているかのよう。
9. We're the one / C.FIRST
[初出:THE IDOLM@STER SideM GROWING SIGN@L 02 C.FIRST (2021)]
さて、お次はSideMから、新たに2021年にデビューしたユニット=C.FIRSTのデビュー曲を取り上げたい。We're the oneは、10年代以降の世界のアイドルポップシーンを牽引するK-POPマナーに忠実でありながら(というよりはあるがゆえに)、バチバチのEDM〜ブロステップのドロップ部分もありという、現行の、あるいはこれからのシーンを多分に意識した楽曲に仕上がっている。一気にグローバルシーンへ、とまではいかないが、20年代のメインストリームの男性アイドル(それこそJO1やSixTONESなど)との同時代性を強く感じさせる一曲であり、これからのSideMの可能性を感じさせる前を向ける一曲だ。
10. Give me some more... / アルストロメリア
[初出:THE IDOLM@STER SHINY COLORS PANOR@MA WING 05 アルストロメリア]
最後は2018年に始動したシャイニーカラーズ(=シャニマス)から。シャニマスはSideM同様、ユニット単位の活動を軸としており、特にPANOR@MA WINGシリーズの楽曲は、ハードロック/メタルとアンティーカ、シティポップとノクチル、ダンスミュージックとシーズといったように、ユニット毎に音楽的特徴がわかりやすく異なっている。
さて、上の対応関係で言うなれば、ジャズとアルストロメリアという表現になるだろう。Give me some more...はスウィングジャズを基軸に、それがエレクトロ〜EDMと見事に調和したナンバーである。特に2:30〜の間奏は、これぞEDMな重低音のベースにジャジーなフレーズがコラージュのようにこれでもかと矢継ぎ早に展開される、実に実験的なパートとなっており面白い。こうしたエレクトロスウィングは鉢屋ななし、ぬゆり、すりぃ等、近年のボカロシーンにおいて重要な位置を占めており、Give me some more...はそうしたシーンの興隆とも地平を共有する可能性をもった楽曲となっている。
以上、10曲紹介してきました。今回紹介した楽曲たちを梯子に、少しでもアイマス音楽に興味を持っていただけたら幸いです。
ではでは、MOIW2023を楽しみにしつつ。また何らかの形でアイマス楽曲について紹介できたらと思います。