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誰よりも説得力のある、責任のある”オールライト”ーSong Review : Kendrick Lamar / Alright

誰よりも説得力のある、責任のある”オールライト”

Song Review : Kendrick Lamar / Alright (2015)

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"we gon' be alright"と、彼は繰り返し歌った。シカゴで行われたトランプ氏の選挙集会に反トランプ派が押し寄せ、シュプレヒコールとして”we gon’ be alright”の大合唱が発生した。ケンドリックラマーのメッセージは、反トランプ派にとっての一つの「合言葉」となった。

では、なぜこれほどに彼の放つ”Alright”には力があるのか。すなわち、たくさんのミュージシャンが”Alright”と歌う中で、なぜ「ケンドリックラマーのAlright」が、人々の心に響いたのか。その理由は、彼の歌う「オールライト」が、決して非現実的で空想的なものではないことにあるのではないだろうか。

本楽曲が収録されている”To Pimp A Butterfly”(以下TPAB)は、黒人問題に真っ向から向き合った作品である。そしてこのTPABは、社会的視点と個人的視点から構成されている。すなわち、ファーガソン事件以降顕在化した黒人問題に対する告発をテーマとしながら、一方で、個人の経験を拠り所とした差別意識への心境をテーマとしている。そしてこの”Alright”には、この両方の視点が含まれている。

社会において顕在化している様々な問題が個人的経験に裏付けされることによって、そのメッセージはぐんと説得力が増す。アメリカが抱える様々な問題、そしてこれらの問題がそう簡単に解決できない複雑な様相にあるということに正面から向き合ったうえで、よりよい未来のために、連帯することが必要であると説く。彼の「オールライト」は、現実に向き合い、地に足をつけ、考え抜いた結果の産物なのである。

そういえば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのヴォーカル後藤正文が2016年に発表したエッセーのタイトルは『何度でもオールライトと歌え』であった。同書で彼は、音楽と政治の関係について、その両者が不可分であることを説いている。アメリカで、ケンドリックラマーは政治的にこれほどまでに影響力を持った。日本で、ゴッチは「音楽は政治的であってはいけない」という主張に、真っ向から反駁した。そしてその両者のメッセージの核には、「オールライト」があった。この共通点は単なる偶然だろうか、それとも必然だろうか。

 

ということで、今回はケンドリックラマーの”Alright”のソングレビューをお届けしました。グラミー賞で圧巻のパフォーマンスを見せたことも記憶に新しいケンドリックですが、この度ついにフジロックへの出演が決定しました。さて、ここ日本で、ヘッドライナーとして、どのようなパフォーマンスを見せてくれるか非常に楽しみなところです。個人的にはTPABは非常に聴きこんだのですが、DAMN.は未だ聴きこんでいないせいか、あまりその良さが分かっていないというのが正直なところなので、もう一回きちんとDAMN.を聴きなおしてみようと思います。いやはや、フジロックが本当に楽しみです。ということで。ではでは。

 

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