"ポストボウイ"の静かなる始まり
Song Review : St. Vincent / New York (2017)
I have lost a hero
I have lost a friend
But for you, darling
I'd do it all again
彼女はこの壮大で感傷的な本楽曲で、ヒーローの死、友人との離別、そして慣れ親しんだ街への想いを綴る。アーティスティックでミステリアスなイメージが付きまとうSt. Vincentことアニー・クラークであるが、この"New York"には彼女のあくまでも人間的な、感情的な思いが込められている。
デヴィッド・ボウイの死から一年半がたち、彼がどれだけ偉大なミュージシャンであったか、そして彼の音楽がどれほどに大きな影響を有していたか、こうしたことがあらためて明らかになってきた。前回記事にしたLCD Soundsystemの復活劇がボウイの死に触発されていたように、このアニー・クラークの新曲もまた、「ヒーロー」=ボウイの死をテーマとしている。
このアニー・クラークという10年代シーンの中心的存在がボウイへの敬意を示したことは特にボウイ世代ではない者たちに彼の偉大さを印象付けるだろう。日本においてボウイの死がメディアで騒がれた際に、「ボウイなんて知らない」という若者と、「ボウイを知らないなんて近頃の若者は怪しからん」というボウイ世代の間でなにかと言い争っているのが見受けられた。しかし、そんなものは世代間によくある話である。どうかボウイ世代の皆様には若年層の無知を嘲るのではなく、ボウイが何をもって偉大であるのかを後世にぜひ丹念に伝えていただきたい。実際にボウイは最後までジャズやブラックミュージックというまさに現在の潮流を作品に反映させていた。ボウイのこの挑戦を最後まで続けていた姿勢を忘れてはいけない。
New York isn't New York without you, love.―この儚くも美しい詩にのせて、アニー・クラークはヒーローと友人と愛の喪失を歌った。しかしながらここには一抹の希望が、"I'd do it all again"と歌われている。失ったものの大きさを感じながら、彼女の目はあくまでも未来に向いているのである。