ゆーすPのインディーロック探訪

とあるPのインディーロック紹介ブログ。インディーからオルタナ、エレクトロ、ヒップホップまで。

インディーロック好きのためのボーカロイド名盤10選

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米津玄師、YOASOBI、ヨルシカ、ヒトリエーー今や、ボカロ発のアーティストがJポップの中心的存在となることは珍しいことではない。かつてオタク的だと表象されていたボカロ音楽は、その偏狭な文脈を脱し、ユースカルチャーへ、ポップカルチャーへと変貌している。

だが、未だボカロ音楽が音楽的に評価されることは多くない。実際、上に挙げた彼らへの評価は必ずしもボカロ音楽「それ自体」への評価を意味していない。インターネット発のベッドルームミュージックがメインストリームに躍り出るという点や物語的なミュージックビデオの構成という点で取り上げられることが多く、彼らのボカロPとしての「楽曲そのもの」が広く評価されるにまで至ってはいない。

ハチ、Ayase、n-buna、wowakaーーボカロ音楽は、アマチュアのための音楽であり、ボカロPの世界は純粋な実力社会だ。先入観や御託はとりあえず棚に上げてしまって、そこで繰り広げられる音楽に耳を傾けてほしい。そこで今回は、「インディーロック好きの」という枕詞を(勝手に)付けて、個人的に好きなボカロのアルバムを10枚紹介したい。

色々書きましたが、つまりは自分の好きなボカロのアルバムを紹介するだけのやつです。一応インディーロックや洋楽リスナーが好きそうなものをチョイスしたつもり。加えて、ボカロというと「曲」単体が注目されがちですが、あえてここではアルバムにフォーカスしてみました。割と定番揃いなので、もしかするとボカロ好きには退屈かもしれません。ではでは。

 

1.しーくん / BOYS SEE BOYS(2018)

UKロックの影響を受けた音作りが特徴的な"しーくん"の1stフルアルバム。分かりやすいサビのメロディの一方で、複雑な曲展開やシニカルな歌詞が中毒性のある一枚。独特の気怠い空気感が見事。ルサンチマン・クラブ~雲散霧消~テイクアウト・スーサイドの流れは必聴。

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2.wotaku / トラゴイディア(2020)

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wotakuのトラゴイディアは、狂気と平穏の絶妙な均衡の上に成り立っている。美しいピアノの旋律、複雑に移り変わる曲展開、突如として挿入される不協和音――これらがひりついた緊張感の上で見事に混じり合う。幾何学的イメージとグリッチイメージが交互に出現するMVも必見。プシュケー、レキシコン、ジェヘナ、シビュラ等名曲多数。

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3.有機酸 / Troy(2017)

シンガーソングライター神山羊としても知られる有機酸の1stフルアルバム。tofubeats的なビートセンスあふれるハイセンスな楽曲が並ぶ。エレクトロピアノを基調に展開されるダンスミュージック・エレクトロニカはジャジーR&Bっぽさも。なんといってもやはりlili.、quite roomは必聴。

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4.すりぃ / ぱんでみっく(2020)

2020年=パンデミック下の時代の空気感を見事に打ち抜いたすりぃの衝撃のデビュー作。LGBTQのジェンダーをめぐる問題を提起するテレキャスタービーボーイなど、マイノリティや社会的弱者をめぐる問題を扱う作品がこれほどまでに若者に受けたのは、非常に興味深い。注目曲はテレキャスタービーボーイ、空中分解、ビーバーなど。仕掛けの多い歌詞のフレーズにも要注目。

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5.mao sasagawa / Graduation(2018)

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今やApple Musicの「今週のNEW ARTIST」に抜擢されるなど広く注目を集めている笹川真生が最後のボカロ作品としてリリースした1stフルアルバム。ドリームポップやポストパンクの音を軸に、ART-SCHOOLsyrup16gといった退廃的なオルタナティブロックの影響や2010年代後半のR&B、ヒップホップの影響をも感じさせる優れて普遍的な一枚。退廃的なサウンドで緊張感のあるウィスパーボイスなのにポップさも兼ね備えているという、非常に新鮮なサウンドが楽しめる。

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6.ryuryu / vibgyor(2014)

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初音ミクのボーカルとエレクトロニカの相性の良さを改めて実感させられる。エレクトロニカシューゲイザー、ポストロックの影響を受けた美しく優しい音が魅力なryuryuの3作目。エレクトロニカを基調にしながらも、生音ベースのピアノやドラムの音が前面にフィーチャーされているため、自然の情景や人間の温かさが感じられる。For Us All、Hide And Seek、Breath In、Watercolor、Juvenile等…好きな曲を挙げたらキリがない。

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7.古川本舗 / peams E.P(2011)

古川本舗が自身の代表曲のボカロ歌唱版を詰め込んでリリースしたベストアルバム的な一枚。Four TetCaribou、あるいはAmerican FootballやCopelandを思わせるフォークトロニカ、アシッドフォーク、ポストロックを経由した幻想的なポップミュージックが目白押し。ただ、もう再販の見込みもなく、アマゾンでは1万円近くまで高騰化しているため音源を入手するのが難しいかもしれません…。

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8.sasakure. UK / 幻実アイソーポス(2012)

やはりsasakure. UK抜きにエレクトロニカボーカロイドの歴史を語ることはできないだろう。i am robot and proudを思わせるピコピコポップなチップチューンをドット絵アニメーションや絵本のようなアートワークが彩るsasakure. UKのスタイルは、ボカロシーンに多大な影響を与えた。本作2ndアルバムは、「人と機械の共存」をテーマにボカロ曲と女性歌手による歌唱曲を織り交ぜた構成となっており、その音楽的射程はエレクトロニカのみならず、ドリームポップやジャズにまでも及ぶ。深海のリトルクライでは土岐麻子をフィーチャーするなど、ボカロの可能性を大きく広げた一枚。

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9.羽生まゐご / 浮世巡り(2018)

浮世めぐり 羽生まゐご

和太鼓や琴など和楽器を大胆にフィーチャーし、ボカロシーンに風穴を開けた羽生まゐごのデビューアルバム。その独特なサウンドの一方で、メロディーラインはポップで非常に聞きやすく普遍的。懺悔参りや阿吽のビーツなど、癖になる和楽器ダンスチューンが目白押し。

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10.n-buna / 花と水飴、最終電車(2015)

今やJ-POPを代表するアーティストとなったヨルシカのコンポーザーn-bunaによる1stアルバム。消えてしまいそうな掠れたボーカル、自然の情景が臨場感をもって迫る美しいメロディライン、そしてサビで爆発するノスタルジー――夏の終わりをテーマにエモーショナルな楽曲が並ぶ一枚だ。本人がamazarashiやPeople in the Boxの影響を語っているように、その世界観はボカロシーンの中でも唯一無二。何といっても「夜明けと蛍」のBPMをぐっと落としたロックチューンは、高速化するボカロシーン・10年代邦ロックシーンに対する強烈なバックラッシュであったに違いない。彼の代表曲ウミユリ海底譚は言わずもがな、始発とカフカやメリューなど、胸をぐっと締め付ける名曲が多数。

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peams.E.
以上、個人的名盤10選でした。「ボカロ的=うっせえわ」の図式の下でAdoの「うっせえわ」だけが変に独り歩きしてしまっている感が否めないのですが、近年のボカロシーンは本当にバラエティーに富んだ面白い楽曲がたくさんです。柊キライ、煮ル果実、john、Kanariaなど、誰が今後J-POPの中心的存在となってもおかしくないように思います。この記事をきっかけに、ボカロの音楽的価値を再認識していただけたら嬉しい限り。ではでは。