どうも、ゆーすPです。最近(悪い意味でばかり)話題になっているVTuber界隈ですが、私はすっかり彼らの音楽のとりこになってしまいました。なんとなく外から見ていると眉唾な感じがするVTuberかもしれませんが、実は彼らの音楽は各所で高い評価を受けています。
そこで今回はVTuberの音楽を皆様にご紹介したいと思います。音楽メディアでピックアップされるなど高い評価を受けているVTuberの音楽のうち、個人的に私が推しているVTuberのアルバム10枚をピックアップしてみました。本記事をきっかけに、VTuberの音楽に少しでも興味を持っていただければ幸いです。
今回はPART1ということで、1~5枚目までをご紹介。
- 1. False Memory Syndrome / ピーナッツくん
- 2. 月の兎はヴァーチュアルの夢をみる / 月ノ美兎
- 3. KMNVERSE / KMNZ
- 4. city hop / Marpril
- 5. DEAD BEATS / Mori Calliope
1. False Memory Syndrome / ピーナッツくん
事務所に所属していない個人勢のVTuberとして絶大な人気を誇るピーナッツくんによる1stアルバム。
一聴してまず驚くのはそのトラックの先進性であろう。「DUNE!」や「Kick!Punch!Block!」で典型的な2010年代中盤以降のマンブルラップ*1の影響をうかがえるヴォーカル処理、あるいは「グミ超うめぇ」や「幽体離脱」などのドリーミーで浮遊感のある同じく10年代のサウンドクラウドラップ*2的なトラックなど、トラップ以降の10年代以降の音を自覚的に取り込んでいる。
他方リリックに目を向けると、VTuberという特異な立ち位置を生かした面白いヴァースが豊富であり、「酸素は君らの再生数?もしくはイベント動員数?」(DUNE!)や「匿名即レスするアナタはマジ特別マジ直接会いたい」(Kick!Punch!Block!)など、VTuburらしさが前面に押し出されている。さらに、グミやポケモンなど、その着眼点も非常にユニークで、前者では「HARIBO Bear is my friend I miss you ひもQ 消えた謎の実」、後者では「短パン小僧が空けるシャンパンボトル降る雨 俺もふしぎなアメを食う 俺を狂わす」など、クスッと笑えるヴァースが随所に散りばめられているのも魅力の一つだ。
このように本作はVTuber界隈で異彩を放つ彼のキャラクターが存分に発揮されたアルバムとなっており、現行ヒップホップシーンの潮流をしっかりと引き受けつつ前衛的な遊び心のあるリリックで自身のパーソナリティを充分に発揮した優れて刺激的な一枚である。
なお、なんとニートTokyoへの出演を果たしている(Awichについて熱弁している)*3。さらに実は2019年のゆるキャラグランプリだったりと、多方面で大活躍しているピーナッツくん。もちろんVTuberとしての活躍も目ざましく、キズナアイやにじさんじの剣持刀也に(ダルがらみ)したりしている。
2. 月の兎はヴァーチュアルの夢をみる / 月ノ美兎
総再生数は1億7000万回を上回るなど、にじさんじひいてはVTuberを代表するライバーであることはもちろん、VTuberの文化的礎を築いたといっても過言ではない月ノ美兎による1stアルバム。
ASA-CHANG&巡礼やいとうせいこう、長谷川白紙など、本作に名を連ねたクレジットをみれば一目瞭然であるが、本作は昨今のJポップの潮流を意識しつつ、アンダーグラウンドシーンも視野に入れた先進的サウンドを随所に取り入れた力作となっている。
そのサウンドの先進性はオープニングトラック「月の兎はヴァーチュアルな夢を見る」のエスニックさとエレクトロが交差するエクスペリメンタルなサウンドを聞けば早くも明らかであるが、「ウラノミト」「光る地図」など目まぐるしく展開を変えるビートが見事なシティポップナンバーやネオアコ〜ポストパンクの残香をも感じさせる相対性理論meetsNew Orderともいえる「浮遊感UFO」、さらにはAORチックなサウンドにポエトリーリーディングの乗った自由度の高い「NOWを」など、挑戦的で多様なサウンドに耳を奪われる。
また、歌詞に目を向けると、いわゆるサブカルチャー的なコラージュが散見され、その意味では2chからニコ動、初音ミクといった一連の文化的系譜の延長線上に自らを位置づけていることが分かる。遊び心がふんだんにつめこまれた「みとらじギャラクティカ」のヴァース「地球生まれインターネット育ち バーチャルな奴は大体友達」なんかはそれを如実に表す一節であるが、アイドルマスターの(あからさまな)オマージュである「Moon!!」はそうした姿勢を特に体現しているように思われる*4。
なお、この一枚は海外のレビューサイトRate Your Music*5に掲載されるなど、海外の音楽通をも唸らせたというから驚きだ。
3. KMNVERSE / KMNZ
LITAとLIZの2人からなるVTuberユニットKMNZによるデビューアルバム。彼女らは音楽ユニットとして結成され、2018年のデビュー以来2枚のフルアルバムをリリースするなど精力的な音楽活動を続けている。
力強い歌声が特徴的なLITAと、可愛らしい声が特徴的なLIZ。この両者のヴォーカル/ラップが見事に掛け合わさり、これを洗練されたエレクトロ、あるいはメロウなシティポップが彩る多彩な一枚。
「OPENING」でハイテンポなビートと疾走感&遊び心のあるリリック(後半のあいうえお作文のゆるさもまた彼女らの魅力であろう)が披露されヒップホップデュオとしての本領が発揮されたかと思うと、一転、続く「R U GAME?」は煌びやかなエレクトロミュージックに彩られたEDM×JPOPの王道ナンバー。楽曲の振り幅はさらに広がり、後半melty girl~sTarZ~retouchはBPMをぐっと落としたしゃれたメロウなトラック&メロディで、tofubeats以降のJ-POPのモードを見事に提示する。7曲目「VR」でアルバムは大円団を迎え、さながらVTuber版Tell Your Worldとも言えるキラーチューンで、VTuberの今と未来を高らかに歌い上げる。
前述したようにLITAとLIZでは声質が大きく異なるのだが、加えてLITAがBIMのBUDDYや鎮座DOPENESSのMOGU MOGUといったヒップホップナンバーをカバーしている*6一方、LIZがロキや金星のダンスといったボカロ曲や恋愛サーキュレーションなどのアニソンをカバーしている*7など、両者のルーツとなる音楽も大きく異なっており、それがスタイルの違いにも表れている。だが、一見水と油に見える両者がヴァーチャルという結節点で見事に混じり合っており、KMNZ独特のスタイルとして見事に機能している。
本作はiTunes Storeのチャート(ヒップホップ/ラップ トップアルバム)で香港や台湾、インドネシアにおいて一位を獲得するなど、世界的にも注目を集めている。そもそもの本作制作のためのクラウドファンディングも1か月で目標額を大きく超える1,000万円を達成するなど、ファンベースも厚い。これからどんどんとメジャーになっていくこと間違いないだろう。
4. city hop / Marpril
谷田透佳と立花鈴によるVTuberデュオアーティストで、音楽とダンスの融合したパフォーマンスが特徴的なMarpril。そのため、クラブミュージックにフォーカスした楽曲が多く、フル3Dモデルによる立体的なダンスパフォーマンスの映像も魅力的だ。
オープニングトラック「sheep in the light」からぶっちぎってエッジなクラブアンセム。ハウスミュージックにダブステップのベースラインがミックスしたベースハウスのトラックだ。同様に、最近のDisclosure味も感じるUKガレージライクな「シンフォニア」やアウトロのブロステップがアガる「Girly Cupid」、さらにはYoji Biomehanikaリスペクトともとれるアグレッシブなリフが特徴的な「city hop」など、多様な、そして最先端のクラブミュージックに見事にリーチしている。
一方「ブレーカーシティ」や「digitalize」では、EDM的なリフをはさみながらも、透明感のあるヴォーカルとメロウなビートが心地よく、さらには初期Perfumeのトイポップの残香をも感じさせる「Hacked Fruity Luv」、そして(なぜかエレクトロ色ゼロの)ロックナンバー「full bloom」までを収録した射程の広さ。
2022年1月、彼女らは次なるステップのための準備期間として、活動頻度の低減を発表した。より一層パワーアップした姿を見ることができる期待を胸に、ネクストアルバムを待ちたい。
5. DEAD BEATS / Mori Calliope
ホロライブプロダクション所属のVTuberで、特に英語圏を中心に活動する「ホロライブEnglish」の一員であるMori Calliope。ほぼ英詞、ときたま日本語を織り交ぜるスタイルで、その圧倒的なラップスキルで人気を集めている(彼女の圧倒的なスキルの高さはEminem feat. Juice WRLDのGodzillaのカバー(Mori Calliope and Eminem ft. Juice WRLD sing Godzilla - YouTube)を聴けば一耳瞭然だ)。
1曲目「ReaperかRapper?自己紹介ラップ」で早速タイトで力強いライミングが惜しげもなく披露され、死神(Reaper)としてのキャラクター性や「Vocals gangster as can be, and I'm still "moe" as f**k」といった自身のVTuberとしてのキャラクター性にも意識を向けた「自己紹介ラップ」となっている。開幕の可愛らしい「では始めましょうか?」から「f**k it」でモードが切り替わるのが最高にクールな2曲目「失礼しますが、RIP」では、英詞ラップの中に時折織り込まれるカタコトの日本語が独特の味を出しており、さらに、カタコトの「ちょっと変だ」と「put your hands up」をかけるなど、日英両言語を軽々と飛び越えて韻を踏むスキルの高さにただただ脱帽。
さらに、グライム流のビートに乗った3曲目「DEAD BEATS」や一転BPM遅めのピアノナンバー4曲目「LIVE AGAIN」もあり、彼女の可能性の広さを感じさせる。ここで取り上げた本作DEAD BEATSはEPであり、収録曲は4曲。デビューEPながら本作は日本のiTunesアルバム総合のランキングでトップを獲得し、さらに2ndEP"Your Mori."はアメリカでも同ヒップホップ/ラップアルバムチャートでもトップを獲得した。まだフルアルバムは発売されていない状況だが、近いうちに出るに違いないフルレンスにも要注目だ。
長くなったので、6枚目以降についてはPART2に続きます。
*1:マンブルラップについては、昨年リリースされた2ndアルバム収録の「SuperChat」に「マンブルラップよりマンブル雑談億戦万」というリリックがあり、また「Kick!Punch!Block!」の0:36〜0:47辺りの「むにゅむにゃむにゅ〜〜」という表現もマンブルラップの揶揄ともとれる。
*2:サウンドクラウドラップ(あるいはクラウドラップ)については、「Drippin' Life」でTom MacDonaldの"Everybody Hates Me"を大胆にサンプリングしていること、あるいは「おやすみグッナイ」がJuice WRLDの"Lucid Dream"のオマージュであることなどからその影響が伺える。
*3:ピーナッツくん : Awich が好きになった瞬間 - YouTube
*4:ちなみに、元ネタはStar!でありシンデレラガールズの楽曲であるのだが、随所に他のアイマス曲(「何度も言えるよ」(萩原雪歩)や「1,2,3」(こちらはアイステ曲だが)など)の様相も感じさせるところに月ノ美兎のバックグラウンドが如実に現れているようにも思われる。
*5:参加型の音楽レビューサイト。本作は2021年の年間ベストの68位にランクイン。
*6:BUDDY feat. PUNPEE - BIM(Cover) / KMNZ - YouTube、https://www.youtube.com/watch?v=tOmoHL2gL5I
*7:https://www.youtube.com/watch?v=EIbvKSUeta0、https://www.youtube.com/watch?v=PPkbBhQ6Cq4