ゆーすPのインディーロック探訪

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相互的であるということーDisc Review : Dirty Projectors / Bitte Orca

相互的であるということ

Disc Review : Dirty Projectors / Bitte Orca (2009)

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Animal CollectiveのMerriweather Post Pavilion、Grizzly BearのVeckatimest、そして、このDirty ProjectorsのBitte Orcaーー2009年という年は、ブルックリン勢が世界を圧巻したなんとも奇妙な年だった。世界の趨勢や流行を気にも止めず、コマーシャルな商業音楽からも一歩距離を置き、ただ自分のアートを追求する。そんなブルックリン勢の姿勢は、逆説的に、反グローバリズムや消費社会への疑念が広がる社会との符号を見せ、結果的に世界的なポピュラリティーを獲得するに至った。

 

さて、Dirty Projectorsの名を世界に知らしめることになったこのBitte Orcaだが(私も本作で彼らを知りました。)、本作の特徴的な点は、やはり音楽的な多様性であり、様々な多彩なサウンドがコラージュのように重なり合い混ざり合う様であろう。この多様性は、アコースティックなフォークミュージックからアフロビート、ゴスペル、ソウル、更にはモダンなR&Bまで非常に多岐にわたっており、アルバムは目まぐるしくその様相を変える。そして、こうした多様な音楽性を一つの傘の下に集める役割を果たしているのが、変拍子とコーラスワーク。この2つのエフェクトーー変拍子とコーラスワークは、アルバムを一つのまとまりのあるものへと精製させ、本作を奇妙な均衡の上に成り立たせる。

特にこの見事なコーラスワークは本作を名盤たらしめている要素の一つで、多層的に重なり合うコーラスは、まるで一つの楽器の音として機能している。そしてこの効果的な多層的コーラスワークとソウルフルなヴォーカルが溶け合うことで、本作の独特な世界観が醸成されている。

ここまで、本作の音楽的多様性とそれを精製するエフェクトについて触れたが、さらに注目したいのがこの音楽的多様性とエフェクトの相互的な作用である。つまり、アフロビートと変拍子が、ゴスペル、ソウルと多層的コーラスが、もしくはアフロビートとソウルが、互恵的に良い効果を生じさせあっている、ということだ。本作において混淆する様々な要素は、そのどれもが独立してあるわけではなく、一つの文脈の中にある。そしてその文脈の中で、諸要素は相互に作用し合い、時にはぶつかり合いながらも、弁証法的に融合する。「相互作用」は、間違いなく本作におけるキーとなっている。ジャケット写真に目をやると、赤い丸と青い丸の間にある細い赤青の線が2人の相互性を表現しているようにも思えてくる。

 

「相互性」は現代社会においても重要な概念だ。グローバル化が進行し社会における均質性が失われている世界において、多様な文化的、社会的、政治的背景を持つ人々との共生が喫緊の課題となっている。しかしながらこの共生は上手くいっていない。排外的な主張が闊歩し、マジョリティ、自国民を第一に考える主張がかなりの支持を得てしまっている。

自分とは異なる人々との出会いに直面してどうすることが大切なのか。それは相互理解であり、相互的関係の構築であり、相互的対話の継続である。相互性が音楽の場において見事に発揮されたのが本作なのだが、確かにこの「音の相互性」を「人の相互性」の話へと拡張することはかなり無理のある話で、一種のこじつけとも思われるかもしれない。しかしながら、アフロビートとソウルが相互に効果を及ぼしあったようにアフリカ人とアメリカ人が、ゴスペルとフォークの相互作用のようにキリスト教と土着の民俗文化が、お互いに良い効果を及ぼし合うこと、そんな私たちの理想を本作は示唆しているように思えてならない。

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ということで、Dirty Projectorsのあえて新譜ではなくBitte Orcaの方をレビューしました。新譜のジャケット写真からもわかるように、新譜はこのBitte Orcaへの回帰を匂わせています。なので、そんな新譜の根底にあると思われるスピリットに迫るために本作を考え直してみよう、ってのがあえてBitte Orcaを取り上げた理由の一つです。このレビューを踏まえてそのうち新譜のレビューをあげたいと思っています。

そしてBitte Orcaを取り上げたもう一つの理由、それはただ単に私が本作をフジロックを控えての予習のために聴きこんでいる、という理由です笑。3日目に行くことが確定したので、予習がてらレビューを書いてみようって感じです。この調子で行くと次回更新はVampire Weekendのレビューになりそうな予感笑。ではまた。