ゆーすPのインディーロック探訪

とあるPのインディーロック紹介ブログ。インディーからオルタナ、エレクトロ、ヒップホップまで。

2018年上半期ベストアルバム10選 : TOP 10 ALBUMS OF 2018 (JAN-JUNE)

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。6月が終わり梅雨が明け、早くも一年の半分が経過しました。ーということで、今年も2018年の上半期にリリースされた新譜の中で個人的お気に入りの曲・アルバムをそれぞれ10曲・10枚づつ紹介したいと思います。それでは、今回はアルバムの方から。(*以下アルファベット順となっており、ランキングはつけておりません。)

  

・Against All Logic / 2012-2017

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Nicolas Jaarの別名義であるこのAgainst All Logicは、本作で、ハウス、ディスコ、さらにはジャズに至るまでの多様なサンプリングを見事に再構築。シカゴハウス、ジューク以後のセンス、新たなアプローチによるエディット・コラージュの道を拓いた。そんな本作はエディット集という性格上、様々な射程を持った楽曲が混在しているが、一方で不思議とどことなく一貫した空気感のようなものが感じられる構成となっている。この一貫性はクラシックなハウスミュージックと一方で新たなサウンドアプローチの間を行き来する中で、断片的に垣間見えるコンセプトアルバムとしての側面だ。反論理的(=against all logic)な意味での論理的一貫性、このアルバムにそうしたものが存在すると仮定するならば、それはきっと伝統と革新、この背反的に見える両者が互いに手を取り合って未来を創り出す、そんな音楽、ひいては世界のあり方であろう。

 

・Courtney Barnett / Tell Me How You Really Feel

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Fiona Appleの例のタイトルがめちゃくちゃ長いアルバムを彷彿とさせるアートワークに、ダウナーなローテンポで展開するリードトラックHopefulessssness。ここまでの情報で、コートニーは2ndアルバムにしてより退廃的、よりグランジ寄りになったのかと思ったが、あっさりとその予想はTr2"City Looks Pretty"で裏切られた。確かに歌唱法、ギターリフを聴けばグランジ的、オルタナ的な音像であることがわかるのだが、その心象は幾分明るい。Nirvana的というよりWilco的といったらいいだろうか。そして随所随所でリフ、メロディセンスが光るのは流石といったところ。このシンプルなリフ、メロディセンスの良さで勝負に出る姿勢は是非昨今の多くのミュージシャンに見習って欲しい。

 

・アイドルネッサンス / アイドルネッサンス

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確かに一般的に青春ソングと言われる曲があることは確かで、例えばMONGOL800の小さな恋の歌だったり、はたまたゴイステの銀河鉄道の夜にだったり、青春ソングだとある程度のコンセンサスを得ることのできる楽曲は多々存在する。しかしながら、一方で、そうではない「自分だけ」にとっての青春を彩る、彩った曲があることも確かだ。どちらが優れている、という訳ではない。そのどちらもが大切な楽曲となって、大人になった自分を支えることとなる。そして、アイドルネッサンスがカバーしてきた曲は、「みんな」の青春を彩った曲であると同時に、「自分(=筆者)にとって」の青春を彩った曲であった。ベボベのchanges、アジカンの君の街まで、スーパーカーのLucky、ピロウズのFunny Bunnyなどなど、これらは私が学生時代に聴きまくった青春の一曲だ。このアイドルネッサンスの試みは、90年代中盤生まれの人間(私)にしてみれば、自分だけのノスタルジーがみんなのノスタルジーとして、再生産された初めての経験であったのだ。これから歳を重ねるにつれて、恐らく、こうした経験は次第に増えていくだろう。でも、初めて直面した「みんな」と「私」のノスタルジーの再生産を彩ったアイドルネッサンスの存在を、どうか忘れずに胸にしまっておきたいと思う次第だ。

 

・Janelle Monáe / Dirty Computer

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近年、ネオソウルよりさらに進んで「フューチャーソウル」と呼ばれる音楽潮流が世界的勃興を見せている。現在に至るまでこのジャネール・モネイは、そんなフューチャーソウルの女王としてシーンに大きな影響を与えてきた。本作Dirty Computerでも彼女の音楽的懐の広さは健在。ソウルからR&B、ファンク、オルタナティブといった様々なジャンルの音楽が見事にポップに一つのアルバムに落とし込まれている。それは、Grimesが見事に多様なジャンルをエレクトロ・ポップに纏め上げたArt Angelsを彷彿とさせると同時に、Dirty Computerに内在する神秘性、という点ではFKA TwigsのLP1を彷彿とさせる。(ふと思ったのだがFKA TwigsのLP1のアートワークは微妙にDirty Computerのアートワークに似ているような気がしないでもない。)

 

・Jon Hopkins / Singularity

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indiemusic.hatenadiary.jp

 (こちら過去記事参照)

 

Kanye West / Ye

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結局、私はカニエの手のひらで踊らされているだけなのかもしれない。突然のトランプ支持表明、オピオイドへの依存、「奴隷制は選択」発言など、一頻り世間を騒がせ、カニエの一挙手一投足に注目が集まる中でリリースされたこのYeであるが、蓋を開けてみればゴスペル的、宗教的な色合いの強い作品となっており、発売までに論争となった点をはぐらかすと言うか、茶化すというか、そんななんとも決まりの悪い歌詞が続いている。

ちなみに、カニエの一連の行動のアメリカで受け取られ方は非常に示唆的だ。カニエの問題行動を毛嫌いする人がいる一方で、彼の歯に布着せぬ物言いが一定の評価を得ている。ここにアメリカの「病理」が見え隠れしている。トランプを生んだ反知性主義が見え隠れしている。過激な発言でも何でも、それが言えなくなってしまう世の中よりは良いという考え方が広がっていることが確かに見えてくる。とにかく権力を嫌い、統制を嫌う。確かに行き過ぎた権力、統制は問題だ。しかし、この感情が銃規制を拒み、銃をめぐる問題の解決を妨げているのも確かである。新自由主義的な考え方が蔓延するこの世界で、カニエウエストという非常に影響力を持った人物がこの立場を臆することなく表明したことを、我々は重く受け止めなければならないのかもしれない。

 

・Natalie Prass / The Future and The Past

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バージニア州リッチモンド出身のシンガーソングライター、ナタリー・プラスの3年ぶりの新譜となる2ndアルバム。タイトでソリッドなリズム隊が光るShort Court Styleから、彼女の表現力豊かなヴォーカルが味を出すアーバンなバラードSistersやFar From Youに至るまで、多彩なセンスの光る一枚。昨今の女性シンガーソングライターの群雄割拠の中で、ナタリー・プラスの強みはインディー的な空気感とR&B、ファンクのグルーヴの見事な融合にある。本当に2ndアルバムだとは思えないクオリティ、完成度の高さだ。

 

・Superorganism / Superorganism

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indiemusic.hatenadiary.jp

  (こちら過去記事参照)

 

・Tom Misch / Geography

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「ロンドンの若き天才」と称される弱冠23歳のTom Mischによる満を辞してのデビューアルバム。ロンドンのエレクトロシーンというと、近年ではJames BlakeやJamie xxがその筆頭として挙げられるが、前二者とは対照的に、彼の音楽はディスコやジャズといったアメリカの音楽シーンからの影響が大きい。エレクトロとディスコやジャズといったブラックミュージックの接合という点ではむしろFlying LotusのYou're Dead!やThundercatのDrunkといった作品に近いと言える。眉唾はTr3のSouth of the River。ファンキーなリズムギターにjazzyなギターソロ、そしてキャッチーなヴァイオリンのリフ、この三つの要素が見事に溶け合う様は圧巻。

 

・XXXTentacion / ?

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indiemusic.hatenadiary.jp

 (こちら過去記事参照)

 

ちなみに次点は

ASAP Rocky / Testing
・Migos / Culture Ⅱ
・Rhye / Blood
・serpentwithfeet / soil
・tipToe. / magic hour

こんなところ。

 

ということで、ざっとこんな感じです。正直あまり新譜を幅広く聞けてないので割と定番気味ですが…。次回はベストトラック編となります。ではでは。