ゆーすPのインディーロック探訪

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行き場のない僕らのサウンドトラック―Disc Review:Radiohead / A Moon Shaped Pool

行き場のない僕らのサウンドトラック
ディスクレビュー:Radiohead / A Moon Shaped Pool (2016)

 

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 こんばんはゆーすPです。今日は、ちょうど去年の今頃に書いたのですがそのままお蔵入りになってしまっていた(まだその時はブログをやっていなかったので。)文章のひとつ、"A Moon Shaped Pool"の評をもったいないので上げちゃいます。ちょいと短めです。

 

 Radioheadのメッセージはずっと明確だった。今から23年前、1stアルバムの一曲目"You"で"あなた"と対峙して以降、対峙する"あなた"が"あなたたち"となり、"英国"になり、"世界"になり、それはその音楽性が非常に難解であったKid A(2000)やAmnesiac(2001)においてもまた、明確だった。彼らがHail to the Thief(2003)において、ブッシュ批判を行った際も、その怒りの矛先(=敵)ははっきりとグローバリズムや資本主義に対して向けられていた。

 しかし、本作に目を転じてみると、タイトルの”A Moon Shaped Pool”やジャケット写真が暗示するように、その輪郭は不明瞭ではっきりとしない。"Daydreaming"のPVにおいてトムはまるで生霊か亡霊のようにどこにもない自分の居場所を探し歩く。本作のオープニングトラックである"Burn the Witch"は、単なる魔女狩りの話かと思うと実は『ウィッカーマン』であるという突飛でホラー染みたオチで締められる―といった具合である。Radioheadにとって、2003年の世界における敵は可視的で分かりやすかったが、今はそうではない。複雑化したこの社会において、"悪者"である魔女を狩る魔女狩りもまた、"悪者"になりうる(このことは、同曲のミュージックビデオの冒頭にはTwitterのアイコンを模したと思われる鳥のアイコンが登場することからも示唆される)。

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"In Rainbows"のラストトラック"Videotape"を思わせる美しいピアノのメロディに彩られた一曲。曲の最後のうめき声のようなボーカルは"half of my life"という一説の逆再生だという。

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ウィッカーマン』を思わせる何とも悪趣味な結末をぜひご覧いただきたい。この「魔女狩り」はヨーロッパにおける難民排斥の問題の比喩か、それとも正義の名のもとに悪者叩きを繰り返すメディアや大衆への揶揄か。

 

 そんな輪郭のはっきりとしない水溜りで、僕らはただ彷徨っている。何が正しく、何が間違っているのか、そんな単純なことも分からない。そうやって真実を考え続ければ考えるほど、世界を想えば想うほど、世界から疎外され僕たちは行き場を失う。ましてや家族を失ったトムには行き場はおろか帰る場所もない。   

 "Daydreaming"のPVのラストシーンにおいてトムが彷徨い続けた先に見つけた場所は、雪に覆われた山奥の洞窟だった。見つけた、というよりは、何かから逃げるように、追いすがるようにして辿り着いた、と言ったほうがいいかもしれない。トムは悲しみ絶望しているというよりはむしろ、ただ途方に暮れそもそも悲しいという感情さえも失っていた。だからこそ、ラストナンバー"True Love Waits"が恐ろしく心に突き刺さる。美しいピアノアレンジに乗ってサビで繰り返される"Don't leave"のフレーズ―"Radioheadにしては珍しく直球の歌詞であるが―はトムの悲痛な叫びにも、優しい子守唄にも聞こえてくるのだ。それは、愛を失い、その本当の大切さに気付いた彼が手にした一つの結論なのかもしれない。