ゆーすPのインディーロック探訪

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コールドプレイが描く世界の今——Disc Review: Coldplay / Everyday Life (前編)

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どうもお久しぶりです。最近なかなか更新できませんでしたが、個人的に一段落つきまして、これからはちょこちょこ更新できると思いますので、どうぞよろしくお願いします。今回はコールドプレイの新譜Everyday Lifeのディスクレビューとなります。本作のテーマやモチーフのうち、特に個人的に興味のある点などについてダラダラ語っていこうと思います。ではでは。

 

 

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コールドプレイは今回の新譜で、世界中の今を描いた。前作のワールド・ツアーを通して彼らが考えたことをベースに世界の課題、現状を曲に込めつつ、特に西洋中心主義的な世界のあり方を見つめなおすような作品となっている。同作品はSunriseとSunsetの二部構成から成り、一日の限られた24時間をテーマとしている。今回は特に前編ということでSunrise(1曲目から8曲目)を取り上げます。

 

 

1.Sunrise (شروق)

 本作のオープニングトラックでオーケストラチックなインスト曲。

 

2.Church

 コールドプレイはキリスト教イスラーム教、ユダヤ教の三つの要素をこの一曲に込めた。同曲はサンプリングとしてアムジャド・サブリの“Jagah Ji Laganay”を用いている。アムジャド・サブリとは、パキスタンの音楽家で、カッワーリーと呼ばれるスーフィー(イスラーム神秘主義)と深い関係にある祈祷音楽の代表的人物として知られている。しかしながら、アムジャド・サブリは2016年6月がテロ攻撃を受け銃殺された(この攻撃はターリバーンによるものだとされており、ターリバーンからはスーフィズムが異端視されていたことが理由として考えられている)。

 同曲の後半にはアラビア語の一節があり、以下のように歌われている。

わが父よ、ああ、神よ、全能者よ、なぜあなたは私のもとを去るのか

أبي يا الله يا قادر، لماذا تركتني؟

わが父よ、ああ、神よ、全能者よ

أبي يا الله يا قادر

自由よ、ああ、神よ

حرية يا الله

愛よ、ああ、神よ

محبة يا الله

この一節は、エルサレムのシンガーNorah Shaqurによって歌われているのだが、Geniusのコメントを見ると、ユダヤ教旧約聖書詩篇に同様の表現があると指摘されており、確認すると、以下のような文が見つかった。

わが神、わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか。なにゆえ遠く離れてわたしを助けず、わたしの嘆きの言葉を聞かれないのですか (詩篇22章-1)

この詩篇はメシア詩篇と呼ばれ、イエスが十字架にかけられた際の苦しみの叫びが表れているという。詩篇は元々旧約聖書に属するものであり、その意味ではユダヤ教的なものであるのだが、キリスト教の歴史においても非常に重要なものであると言われており、特に上の章の一文はイエスが描かれているという点でキリスト者にとっても記念すべき一篇となっているという*1

 この曲においては、こうしたユダヤ教的、キリスト教的な一節がアラビア語で歌われているということにも注意を向けたい。アラビア語イスラームにとって「神の言葉」であり、非常に重要な言語であることは言を俟たない。こうしたイスラーム的な言語でもってユダヤ教的、キリスト教的な一節を歌うことで、イスラエルにおける、あるいは世界中での宗教的な対立に警笛を鳴らしているように思えてくる。実際にイスラエルは2017年にアラビア語公用語から外す法案を閣議決定し、イスラエルに住むアラブ系のイスラーム教徒に不安を与えたことも記憶に新しい。こうした宗教をめぐる対立に言語という観点から共存、他者理解への道を模索しているのではないかというのは少々勘繰りすぎであろうか。

 

3.Trouble in Town

 続くこの曲では移民、難民の問題が歌われている。

I got no shelter

I got no peace

And I never get released

この一節は、安住することの出来ない人々の気持ちを歌ったものだと言えよう。実際に21世紀最大の人道危機と呼ばれるシリア内戦は多くの難民を生み、難民をめぐる問題が世界中で様々な分断をもたらしている現状にある。

 後半に挿入されている会話は、2013年にフィラデルフィアで発生した白人警官による人種差別的な発言の実際の録音をもとにしたものとなっている。この事件は、フィラデルフィアの白人警官が二人の男性に対し、人種的なプロファイリングに基づくような発言をしたことが、そのうちの一人の男性がその発言を録音したために発覚したものである*2アメリカでは特に白人警察による黒人に対する人種的プロファイリングが問題となっており、フィラデルフィアでは七年間で400人の市民に対し発砲していたと伝えられている*3

 こうした人種差別的な言動を問題化することは、同曲のテーマである移民、難民の問題ともリンクしており、主に西欧・白人中心主義的な考え方に対する異議と捉えることができるだろう。

 

4.BrokEn

 同曲はゴスペルをフィーチャーした曲で、ブライアン・イーノに捧げた歌であるという。

 

5.Daddy

 ピアノの音が美しいバラードナンバーで、父から離れていく息子について父の気持ちを歌っている。

 

6.WOTW/POTP

 それぞれWonder of the World、Power of the Peopleの頭文字であるそうで、決して実現することのない理想的な世界について歌っている。

 

7.Arabesque

 アラベスクというイスラーム教の幾何学文様をタイトルに冠したこの曲は、主に西洋とイスラームの相克に焦点を当てている。西洋的なイメージとイスラーム的、あるいはオリエンタルなイメージが交差する楽曲で、コールドプレイは両者が音楽的に融和しうることを示そうとしたのかもしれない。英語、フランス語で繰り返し歌われる「私たちは同じ血を共有している」という一節や冒頭の「私はあなただったかもしれない。あなたは私だったかもしれない」という一節は、上のような融和可能性をうたった一節であるように思う。

 また、この曲で注目すべきなのはナイジェリアのフェラ・クティの言葉「音楽は武器だ。音楽は未来の武器だ」が用いられていることだろう。フェラ・クティは音楽家としてのみならず、黒人解放運動家としても知られ、パン・アフリカニズムの実現に尽力した人物である。さらにこの曲にはフェラ・クティの息子であるフェミ・クティのホーンがフィーチャーされており、そうしたアフリカの問題にもフォーカスしている。

 

8.When I Need a Friend

前編Sunriseのラストトラックとなる同曲は、アウトロのスペイン語が印象的だ。この一節は短編映画Everything is Incredibleから採られたものであるそうだ。同作品は障がいを持ったホンジュラス人がヘリコプターを自作する物語で、この一節は他者への寛容を説いているという。

 

 

後編に続きます