12月に入り、いち音楽リスナーとして気になるのが、各メディアの発表する年間ベストアルバム。近年ではSNSの発展もあり、大手メディアのみならず個々人が自由に思い思いのベストアルバムを発表するようになりまして、本当に多種多様なバラエティーに富んだランキングが溢れております。(ちなみに私も例に漏れず年間ベストを鋭意製作中です。)
そして、この動きの中で毎年やり玉にあがるのが、我が国最大王手の音楽メディアのひとつ、"rockin'on"の発表するベストアルバムをめぐる論争。すなわち、他国のメディア、特にPitchfolkやConsequence Of Sound、Rough Trade、Stereogum、SPINといった海外の音楽メディアとrockin'onのランキングの様相が違いすぎる、ということ。○○とか××とか、これらの海外メディアで軒並み上位にランクインされている作品が無視されている、とか、逆にこれらのメディアが全く取り上げていない作品がrockin'onでは上位にランクインしている、等々。こうした点を以て「rockin'onはガラパゴスだ」とか「rockin’onは遅れている」いう意見をよく耳にします。そして、取り上げる作品が違うこと以上に問題視されるのが、rockin'onが上位に取り上げるのがベテランのミュージシャンだらけで新人を無視していること、そしてレコード会社との関係を勘ぐってしまいたくなるようなランキングであること、でしょう。
今回は、後半の問題点はさておいて、前半の問題点を考えたいと思います。すなわち、「海外の音楽メディアとrockin'onのランキングの様相が違いすぎる」という点についてになります。確かに上に挙げたようなメディアとrockin'onのランキングはかなり様相が違うのですが、それを理由に「rockin'onはガラパゴスだ」と言ってしまうことは果たして適切なのでしょうか。
実は、上に挙げた5つの海外メディア(Pitchfolk、Consequence Of Sound、Rough Trade、Stereogum、SPIN)は、全てイギリス・アメリカのメディアです。そしてここには挙げきれませんでしたが、rockin'inと比較対象になるその他のメディアの年間ベストもほぼ全て英米のメディアになっています。(というか、そもそも日本で紹介される年間ベストアルバムは私の確認した限りではすべて英米メディアの記事が発表したものでした。)
だとすると、英米メディアとの比較のみで「rockin'onはガラパゴスだ」と言ってしまっていいのか、という疑問が生じます。英米のメディアが日本のメディア以上に英米のアーティストに通じているのはある程度は当たり前のことでしょう。なので、rockin'onがガラパゴスかどうかを確かめるために比較すべくなのは英米メディアではなくて非英米メディアなのではないでしょうか。
…ということで、非英米圏の年間ベストを集めてみました。もし非英米圏の年間ベストもrockin’onみたいに英米圏の年間ベストと全く異なるようであるなら、日本のrockin’onはガラパゴスである、とは必ずしも言えなくなるでしょう。rockin’onのようなランキングのあり方が非欧米圏では決して特殊なあり方ではない、ということなのですから。
まあここまではごちゃごちゃ言ってきましたが、とにかく、非欧米圏の年間ベストも気になるよねって事で以下調べてみました。ではでは。(※ちなみに本記事ではrockin’onのランキングは紹介しておりません。立ち読みなりなんなりでそこは補完をお願い致します…)
・Gaffa (デンマーク)
ということでまずはデンマークの音楽メディアGaffaから。拠点はデンマークですが、スウェーデン、ノルウェーにも展開しています。1983年創刊のフリーペーパー誌だそうで、レコードショプ等で手に入れることができるそうです。
10. Gorillaz - The Now Now
9. Christine and the Queens - Chris
8. Low - Double Negative
7. Florence and the Machine - High as Hope
6. Cat Power - Wanderer
5. First Aid Kit - Ruins
4. Arctic Monkeys - Tranquility Base Hotel and Casino
3. MGMT - Little Dark Age
2. Janelle Monae - Dirty Computer
1. Father John Misty - God’s Favorite Customer
・Gaffa (スウェーデン)
こちらはGaffaスウェーデン版のランキング。同誌でもランキングの内訳は結構違います。
10.Beach House – 7
9.The Internet – Hive Mind
8.Tribulation – Down Below
7.Daughters – You Won’t Get What You Want
6.First Aid Kit – Ruins
5.Behemoth – I Loved You At Your Darkest
4.Robyn – Honey
3.A Perfect Circle – Eat The Elephant
2.Low – Double Negative
1.Jon Hopkins – Singularity
・GQ.ru (ロシア)
こちらはGQ誌のロシア版。GQは皆さんご存知のアメリカ発の代表的なメンズファッション誌ですが、そのロシア版サイトを見てみたところ、年間ベストはロシア版独自チョイスのものらしく「ロシアの」ランキングとみなしても良いかな、ということでここで取り上げました。20位、16位、15位でロシア人アーティストが選出されています。ただやはり大本がGQなんで、純粋にロシアメディアの選出とは言えませんな…実際にアメリカ勢強しです。
10. Kali Uchis - Isolation
9. Ariana Grande - Sweetener
8. The Internet- Hive Mind
7. Post Malone - Beerbongs & Bentleys
6. Noname - Room25
5. Travis Scott - Astroworld
4. Kanye West - Ye
3. Anderson. Paak - Oxnard
2. Rosalia - El Mal Querer
1. Kids See Ghost - Kids See Ghost
・musikexpress (ドイツ)
https://www.musikexpress.de/25-alben-halbjahr-2018-1069091/ (上半期)
続いてはドイツのmusikexpress誌。1969年創刊。2012年のベストディスクにDjango Djangoを選出してるのを見つけまして、ナイスチョイス、と唸ってしまいました(笑)。まだ年間ベストは発表されていないため、すみませんが上半期ベストになります(発表があり次第更新いたします)。また、順位はついておらず、25枚の選出になります。
・Courtney Barnett – TELL ME HOW YOU REALLY FEEL
・Drangsal – ZORES
・Mouse on Mars – DIMENSIONAL PEOPLE
・Hinds – I DON’T RUN
・Jon Hopkins – SINGULARITY
・DJ Koze – KNOCK KNOCK
・Preoccupations – NEW MATERIAL
・Sam Vance-Law – HOMOTOPIA
・Superorganism – SUPERORGANISM
・Arctic Monkeys – TRANQUILITY BASE HOTEL + CASINO
・And The Golden Choir – BREAKING WITH HABITS
・Nils Frahm – ALL MELODY
・Dream Wife – DREAM WIFE
・Tocotronic – DIE UNENDLICHKEIT
・Shame – SONGS OF PRAISE
・Isolation Berlin – VERGIFTE DICH
・Car Seat Headrest – TWIN FANTASY
・Rhye – BLOOD
・The Sea And Cake – ANY DAY
・Beach House – 7
・Die Nerven – FAKE
・Khruangbin – CON TODO EL MUNDO
・Goat Girl – GOAT GIRL
・David Byrne – AMERICAN UTOPIA
・Jenny Wilson – EXORCISM
・SansCritique (フランス)
こちらはフランスのメディアSansCritique。このランキングは読者投票っぽいのでメディア発表のランキングでは無さそうですが参考までに。
10. Pusha T - Daytona
9. Arctic Monkeys - Tranquility Base Hotel + Casino
8. Eddy de Pretto - Culte
7. Car Seat Headrest- Twin Fantasy
6. Kanye West - ye
5. Damso - Lithopédion
4. Beach House - 7
3. MGMT - Little Dark Age
2. Vald- XEU
1. Kids See Ghost- Kids See Ghost
・Avopolis (ギリシャ)
ギリシャの音楽メディアAvopolisから。ギリシャ語読めず詳しいことが全くわかりません…笑
10. Pusha T - Daytona
9. Earl Sweatshirt - Some Rap Songs
8. Robyn - Honey
7. Idles - Joy as an Act of Resistant
6. Kali Uchis - Isolation
5. Mitski- Be the Cowboy
4. Kamasi Washington- Heaven and Earth
3. Janelle Monae - Dirty Computer
2. Car Seat Headrest - Twin Fantasy
1. Low - Double Negative
・La Nacion (アルゼンチン)
スペイン語のメディア"La Nacion"ですが、アルゼンチン発の日刊紙で同国を代表する新聞の一つであるそうです。スペイン語圏ということもあって、やはり一位はフラメンコの現代的アップデートを果たしたRosaliaでした。
1. Rosalia - El Mar Querer
2. Travis Scott - Astroworld
3. Drake - Scorpion
4. Indio Solari - El ruiseñor, el amor y la muerte
5. Arctic Monkeys - Tranquility Base Hotel and Casino
6. Cardi B - Invasion of Privacy
7. Robyn - Honey
8. Andrés Calamaro - Cargar la suerte
9. Jack White - Boarding House Teach
10. Marilina Bertoldi- Prender un fuego
・Panorama (イタリア)
イタリアの週刊雑誌Panoramaによるチョイス。これはかなりrockin'onに近い…?(笑)
10) ARCTIC MONKEYS - TRANQUILITY BASE HOTEL & CASINO
9) JANELLE MONAE - DIRTY COMPUTER
8) BLACK PANTHER - COLONNA SONORA
7) LENNY KRAVITZ - RAISE VIBRATIONS
6) MUSE - SIMULATION THEORY
5) JONATHAN WILSON - RARE BIRDS
4) ANDERSON .PAAK - OXNARD
3) JACK WHITE - BOARDING HOUSE REACH
2) DAVID BYRNE - AMERICAN UTOPIA
1) SUSPIRIA - THOM YORKE
・CewekBanget (インドネシア)
インドネシアのメディア"CewekBanget"のチョイス。こちらもまだ年間ベストが公表されていないため、上半期のベスト16のリストとなります。順位付けは無しです。
・First Aid Kit - Ruins
・Bat Fangs - Bat Fangs
・U.S.Girls - In a Poem Unlimited
・Lucy Dacus - Historian
・Kacey Musgraves - Golden Hour
・Wye Oak - The Louder I Call, The Faster It Runs
・Kali Uchis - Isolation
・Cardi B - Invasion of Privacy
・Janelle Monae - Dirty Computer
・La Luz - Floating Features
・Beach House - 7
・Courtney Barnett - Tell Me How You Really Feel
・Neko Case - Hell On
・Jorja Smith - Lost and Found
・Christina Aguilera - Liberation
・The Carters - Everything is Love
・鳳凰新聞 (香港)
https://c1.m.ifeng.com/shareNews?fromType=vampire&forward=1&sfrom=pc&aid=sub_67165371
こちらは香港の通称「フェニックスメディア」によるランキング。鳳凰TVは、世界150カ国以上で視聴可能で、中国だけでも推定2億人の視聴者がいると言われている巨大メディアです。アーティスト/アルバム名が漢字表記で"Dream Wife"は「梦幻人妻」、"Sunflower Bean"は「向日葵豆」と言った感じになっています。上半期のランキング。
10.Sunflower Bean - Twentytwo in Blue
9.Jack White - Boarding House Reach
8.Turnstile - Time & Space
7.Ezra Furman - Transangelic Exodus
6.Black Panther- V.A.
5.U.S. Girls - In a Poem Unlimited
4.MGMT - Little Dark Age
3.Hookworms - Microshift
2.Dream Wife - Dream Wife
1.Shame - Songs of Praise
ということで各国の年間ベストアルバムを集めてみました。
いくつか反省点を。
①私の語学力不足、努力不足でアジアのランキング(特に韓国やタイ等)を見つけることが出来ませんでした。各国語で「ベストアルバム2018」と検索しても全くヒットせず、というものだらけで、インド、ベトナム、タイ、フィリピンetc...はそれで断念しました。東南アジアのランキングがわかると面白いだろうなぁと思っていたのでそこは残念…。
②これも私の語学力不足が原因ですが、上に挙げたメディアの国内での位置づけが分からないものがいくつかありました。若者向けなのか、大人向けなのか、そういった購読対象の層がわかればもっとよかったのですが…。
③そして最後の反省点はここで挙げたランキングはすべて「インターネット上に発表されているランキング」になるということ。すなわち紙媒体でしか公表していないランキングはここでは省かれていることになります。こればかりは物理的な限界ですが…。
…といった条件付きではありますが、なんとなーく、非欧米メディアのランキングの空気感が伝わったらいいなと。ランキングの内実は割とどの国も英米メディアと似たような感じが多いと思うのですが、割と適当に作ってる感のあるメディアもあるので、その点rockin'onの方がコメントも豊富で力は入れているような気がします。しかし、やはり全体的に見てrockin’onのガラパゴス感は拭えないですね…。あとは他のアジア諸国との比較ができるともっと面白いものになると思うんですよね。誰か、東南アジアの音楽メディアに詳しい方、お願いします(他力本願)。。
*12/15訂正追加
・CewekBanget(マレーシア)→CewekBanget(インドネシア)に訂正
・SansCrituqueランキング追加
*12/17追加
・鳳凰新聞ランキング追加