ゆーすPのインディーロック探訪

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インディーロックを諦めないーDisc Review : Dirty Projectors / Lamp Lit Prose

インディーロックを諦めない

Disc Review : Dirty Projectors / Lamp Lit Prose (2018)

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Dirty Projectorsは、デイブロングストレスは、インディーロックを諦めなかった。前作から一年という短いスパンでリリースされた本作Lamp Lit ProseでDirty Projectorsはバンドサウンドへの華々しい回帰を果たした。

 セルフタイトルを冠した前作Dirty Projectorsは、セルフタイトルでありながら皮肉にもデイブロングストレスが一人で作り上げたソロ色の強い作品であった。それは長年USインディーシーンを牽引してきたDirty Projectorsのインディーロックとの決別であって、ポップミュージックが覇権的な勢いで伸長するシーンへのデイブなりの回答であった。前作のリード曲であるCool Your HeartやLittle Bubbleを聴けばわかるように、そこには明らかなR&Bへの傾倒が見られる(もちろん以前からダープロはR&Bのエッセンスを携えていたのだが)。自分たちのアイデンティティであった「インディーロック」から距離を置き、バンド性を後景化させたデイブのこの試みは、同年に発表されたArcade Fireの新曲I Give You A Powerとの符合を見せた(しかし、このArcade Fireの試みは新譜Everything Nowには反映されなかったのだが)。しかし、このデイブの試みはロック性の喪失とコインの裏表になっていた。そこで本作では、前作での独創的なR&B的サウンドはそのままに、バンドのダイナミズム、ロック性を取り戻すことが目指されることとなった。

さて、そんなバンドサウンドへの回帰を果たした本作だが、ミニマルで閉鎖的内省的であった前作とは対照的で、開放感溢れるムードとなっている。ジャケット写真がBitte Orcaをイメージさせるものであることからも伺えるように、アルバムのイメージは非常にBitte Orcaのそれと近い。本作に参加しているアーティストとしては、元Vampire Weekendのロスタム、Fleet Foxiesのロビンといったインディーロックの盟友から、The InternetのSydやAmber MarkといったR&Bミュージシャンに至るまで非常に幅広い顔ぶれとなっている。

 

 オープニングトラックRight Nowで歌われる「暗闇があるところで光は輝く、闇なき光は無い(抄訳)」といった歌詞は、本作と前作の関係を見事に示している。光が本作"Lamp It Prose"だとすれば、闇は前作"Dirty Projectors"にあたるだろう。闇が無ければ決して光は存在し得ない。光と闇どちらが良いという価値的な話ではない。両者が存在して初めて二つは存在することができるという話だ。 

先日のフジロックでは、何よりもデイブが楽しそうにバンドメンバーと演奏するのが印象的であった。孤独を知った彼が奏でるバンドサウンドは、共に演奏することの喜びに満ちていた。様々な苦難を乗り越え、試行錯誤を経て、たどり着いた本作で、デイブは見事にUSインディー、ブラックミュージック、ポップネスを結びつけた。

「インディーロックは終わった」と称される2010年代後半にこのLamp Lit Proseがリリースされたことは、インディーロック/ポップミュージックという枠組みそれ自体が再検討される必要のある分析概念であることを示唆している。もはやインディー/ポップの二分法で音楽を語れる時代は終わったのかもしれない。

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 それにしても最近はThe Strokes関連のワードを歌詞に入れるのが流行っているのだろうか。先日Arctic MonkeysがリリースしたTranquility Base Hotel & Casinoのオープニングのリリックは"I just wanted to be one of The Strokes"だった。そして本作Lamp Lit ProseのリードシングルBreak-Thruにも"Just hanging out all Julian Casablancas"という一節がある。この符合は偶然かはたまた必然か、実に気になるところだ(笑)。