ゆーすPのインディーロック探訪

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「ヒップホップアイドル」を見つめなおすーSong Review : lyrical school / つれてってよ

「ヒップホップアイドル」を見つめなおす

Song Review : lyrical school / つれてってよ (2017)

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"Take me out" ――昔はThe Smiths*1から近年ではFranz Ferdinand*2まで、古今東西様々なアーティストによって紡がれてきたなんて事のない一節。でも、そんな手垢のついた"take me out"が日本語的に「つれてってよ」と表現されると、どこか真新しさというか、フレッシュな印象を受けてしまうのはなぜだろうか。

2017年は、初期メンバーの脱退と新メンバーの加入という、これまでのlyrical schoolの終わりと新生lyrical schoolとしての出発点となった。7月にリリースされた新体制後初のシングル「夏休みのBABY」は、Pete Rock&C.L. Smoothのクラシック"They Reminisce Over You (T.R.O.Y.)"をサンプリングした、彼女たちの「ヒップホップ的」なルーツが強調された一曲であった。

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12月にリリースされた「つれてってよ」は、前述の「夏休みのBABY」が夏をテーマとしているのと対応する形で、冬、そして夜空がテーマとなっている。そんな本楽曲の最大の特徴は、ロングヴァースであろう。従来の比較的短いヴァース割りから一転、本楽曲は温かみのあるメロディアスなナンバーとなっている。もちろん、このロングヴァースの効果はメロウな「冬らしさ」を演出することだけではない。ロングヴァースによって、個々人の性格、解釈を引き出しメンバー一人一人の個性を生かすことに成功している。

「夏休みのBABY」がリリスクのアイデンティティとしてのヒップホップ性を前面に押し出した楽曲だとすれば、この「つれてってよ」は新メンバーを含めた個々のアイデンティティをより意識しているような気がする。これまでのリリスクを見つめなおし、これからのリリスクに向けて足元を固めた一年を経て、2018年、彼女たちはいかなる進化を遂げるだろうか。

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ということで今回はlyrical schoolの楽曲を紹介させていただきました。2017年は、欅坂46やBiSHのブレイクなど、確かにアイドルシーンのメジャー化が進行した一方で、GEMやアイドルネッサンスの解散など、いわゆる「楽曲派」として活躍してきたグループの解散が相次ぎました。2010年代以降ポップシーンの内部からカウンター的に発生してきた楽曲派のアイドル達は、ここにきて新たな時代の流れにいかに対応するかという局面に立たされているように思えます。「楽曲派」がカウンターするまさにその相手であったポップシーンの主流派がカウンター的音楽を表象し始めることで、カウンター的な楽曲派のアイデンティティが失われるという図式。AKB48というポップシーンの中心的グル―プの後継が、反抗的な音楽を志向するという点で―欅坂46は、まさにその代表でしょう。

しかし逆に言えば、楽曲派がメジャー化するチャンスは十二分にある、ということ。確かに新体制となったばかりのリリスクに、そんな重たい荷物を背負わせるのは、少し重荷かなとは思いつつも、純粋に彼女たちの楽曲の良さを考えると、期待せずにはいられない―そんな相反する想いに揺られつつ。

*1:The Smith "There Is A Right That Never Goes Out"

*2:Franz Ferdinand "Take Me Out"