ゆーすPのインディーロック探訪

とあるPのインディーロック紹介ブログ。インディーからオルタナ、エレクトロ、ヒップホップまで。

「希望」は「意志」へと変わっていくーDisc Review : LOCAL SOUND STYLE / HOPE

「希望」は「意志」へと変わっていく
Disc Review : LOCAL SOUND STYLE / HOPE (2009)

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 どうも、ゆーすPです。前回、久しぶりに邦楽の記事を書いていたら、邦楽アーティストの記事を描きたい欲が高まってしまった結果、今回も邦楽アーティストの記事です。しかしながら、私が好きな邦ロックバンドはその多くが解散してしまったせいもあって、最近はあまり邦楽を聴いていません。今回紹介するのもそんな残念ながらも解散してしまったバンドの一つである、LOCAL SOUND STYLEです。LOCAL SOUND STYLEとは、2007年に1stアルバムをリリースしながら残念ながらも2011年には早くも無期限の活動休止を発表した青森出身のポップパンクバンド。そんな彼らの2ndアルバムであり個人的に非常にお気に入りの一枚、"HOPE"を紹介します。

 

・00年代の終わりと10年代の始まり

 今思えば、2010年のロックインジャパンフェスティバルは、邦ロック界の非常に大きな転換点であったのかもしれない。2000年代を代表するロックバンド"ELLEGARDEN"は2008年に活動休止を発表し、同バンドのフロントマンであった細美武士は2009年に新たに"the HIATUS"を結成。そしてこの"the HIATUS"がデビューから一年という異例の早さでロックインジャパンフェス(ROCK IN JAPAN FESTIVAL、以下RIJF)のグラスステージのヘッドライナーを務めたのは、2010年のRIJFのことであった。エルレと同様ポップパンクバンドであり、独特のセンスで幅広い人気を誇った"BEAT CRUSADERS"も、同年のRIJFの出演の2ヶ月ほど前に突如"散開"を発表。彼らのRIJFのラストステージが、この2010年のRIJFであった。

 一方で、RIJF2010の初日のウイングテントの出演者に目をやると、"世界の終わり"、"ONE OK ROCK"、"[Champagne]"といった2017年現在に至るまでシーンの中心的存在であり続けているバンドの名ががずらりと並んでいた。エレクトロミュージックに接近してポップさを表現したり、より厚みのあるバンドサウンドを志向したり、"Arctic Monkeys以降"のUKサウンドに影響を受けた曲作りであったり。彼らは皆、00年代とは違った形の音楽を目指す、いわば10年代の幕開けを感じさせる新人バンドたちであった。

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”世界の終わり”のデビューEPから"幻の命"。今ではみんなご存知の国民的アーティストに。

 "ELLEGARDEN"や"BEAT CRUSADERS"、そして"DOPING PANDA"といったバンドが、90年代のメロコアブームを引き継ぎながら、ポップパンクやエモのエッセンスを核に新しい可能性を模索し続けた2000年代の"終わり"、そして"世界の終わり"や"[Champagne]"等メロコアやポップパンクとは一線を画した多くのバンドの誕生という2010年代の"始まり"―この意味で、2010年という節目の年に開催されたRIJF2010は、2000年代の終わりと2010年代の幕開けを象徴するイベントであったのである。

 しかしながら、上述の2010年代的なバンドの存在に対して、ポップパンクやエモの可能性を信じ、そのアップデートを目指した新たなバンドもいた。RIJF2010の二日目の出演アーティストに目を向けると、"BIGMAMA"や"knotlamp"、"LOCAL SOUND STYLE"といったバンドがいるが、彼らがまさに2000年代の流れを受け継ぎながら、新たなポップパンクを志向したバンド達だ。

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ちょうど先月自身初の武道館公演を成功させた"BIGMAMA"。疾走感あふれるメロディーとヴァイオリンの音色がエモーショナル。

 "BIGMAMA"はヴァイオリンをポップパンクに持ち込むことでそのアップデートを試み、現在、非常に多くのファンを獲得しているが、一方でknotlampとLOCAL SOUND STYLEの名前は近年ほとんど聞くことがない。それもそのはず。前者は2013年に、後者は2011年に解散してしまっているのである。

 しかしながら私が思うに、彼らの解散は決して彼らの実力不足からくるものではない。彼らは当時、確かにポップパンクの未来を担う存在として多くの期待を集めていたし、その楽曲のクオリティは決して彼らの先輩達のバンドにも負けず劣らずのものだったと思う。

 では解散の原因は何か。私は、彼らの解散の原因は「時代」のせいによるところが大きいのではないのだろうかと思う。メロコアブームはすでに00年代には衰退の兆しを見せており、一方でボーカロイドDTM、DJ技術の向上に伴う音楽の多様化が顕著となっていた。"BEAT CRUSADERS"が突如解散を発表したのも、こうした時代の状況を読んでのことだったのではないかという話を耳にするが、ラストシングルの題名が"Situation"であったことを考えるとこうした話もなんだか頷けてしまう。

 

・洋楽邦楽の垣根を超えた唯一無二のサウンド

 そんなポップパンクの不況の中で"LOCAL SOUND STYLE"は、ポップパンクと真正面から向き合ったバンドである。

 オープニングトラック"Starting Over"は、壮大感の溢れるストリングスによって彩られたメロディアスで希望にあふれたナンバーだ。サビでは、

Maybe you don't see the way your life is gonna be
Don't you ever blame on yourself
It's over and won't be back
If you're last and hesitate to go beyond the line
Set your goals and draw your dreams today
When you sing my melody

と歌われており、アルバムタイトル”希望”を想起させるポジティブな一曲だ。続く"Don't Look Back On Winding Road"でもそのメロディアスさは健在。一度聴いたら口ずさんでしまう印象的なサビが素晴らしい。ミディアムテンポでライブでは合唱間違いなしの一曲"Beyond the Hope"を挟んで、アルバム中盤のハイライト"Carry On" へ。先行シングルからの同曲は、彼らの魅力がギュッとつまった一曲であり、Jimmy Eat Worldのようなアンセミックでメロディアスなメロディーと、Copelandのような清涼感のあるサウンドが見事に同居している一曲だ。

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 「君の力なんかなくたって生きていける」と歌う"Leave Me Alone"、アコースティックなサウンドが印象的な"Sailling"と続き、"Take Me to the Place"でアルバムは後半のハイライトを迎える。Holidays of SeventeenとのスピリットEPにも収録されている同曲は、とびぬけた彼らのメロディセンスが光る一曲だ。そして最終曲"The Will"でアルバムは大団円へ。この7分超の壮大なナンバーは、"Your dreams come true wherever you are, Your hope ends here and turns into your will"というアルバムの根幹的なテーマが込められた一節で終わりを迎える。ー「希望は意志へと変わっていく」のだ。

 

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・彼らの「挑戦」のその後

 90年代にピークを迎えた国内外のメロコア・ポップパンクシーン。しかしながら、00年代にもこういったシーンで沢山の示唆的な音楽が生まれた。"潔癖"なほどに美しく透き通ったサウンドで人気を博した"Copeland"や"Mae"、そして00年代に入ってもなおメロディアスでアンセミックな楽曲を次々と発表した"Jimmy Eat World"や"Weezer"。"LOCAL SOUND STYLE"はそんな彼らの様々な魅力を一直線上に見事に消化し、新しい、ポップパンクの「希望」となる作品を作り上げた。美しく、メロディアスでノスタルジックーそんな様々な魅力が詰まった本作をリリースした後、彼らは"The Symphony"という8分超(!)の新曲を、なんとレディオヘッドの"In Rainbows"での手法と同様、ダウンロード価格をその購入者が決める「あなたの人生を変える曲の値段は、あなたが決めてください」という方式で販売した。彼らのこれからを予感させた"The Symphony"にまつわるこの二つの挑戦がその後どうなったか。その答えを我々はいまだに聞けずにいる。

 早いものでそんな彼らの活動休止から6年が経った。Hi-Standardが18年ぶりの新譜を出し、"WANIMA"や"04 Limited Sazabys"といった新たなバンドがメロコアシ―ンを賑わせている。そんな中で"LOCAL SOUND STYLE"が再び日の光を浴びる機会が来る日を、私はいまだに待ち望んでいる。