ゆーすPのインディーロック探訪

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煌めき、色付く、僕らの世界ーDisc Review : Phoenix / Ti Amo

煌めき、色付く、僕らの世界
ディスクレビュー : Phoenix / Ti Amo (2017)

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 Phoenixというバンドはまさに理想のストーリーを経て成長してきた。それは1stアルバムにして大傑作を作り上げその後の活動に苦悩したThe Strokesとも、大ヒット曲が一曲だけひとり歩きしていき誰もアルバムを聴いてくれないと嘆くMGMTとも違った。彼らはあくまでも一歩ずつ、着実に、ファンを獲得し知名度を上げてきた。そんな彼らは、デビューから13年にして遂にコーチェラのヘッドライナーとして出演し、大歓声を浴びるに至った。

 

 そんな彼らの音楽的変遷もまた、理想的なディスコグラフィを辿っている。1stアルバム"United"では陽気でレトロなナンバーが揃いフランスのディスコシーンの中でも独特の緩さと懐古的サウンドが特徴的であったが、その後一気に内省的な方向を志向した2ndアルバム"Alphabetical"やバンドのアンサンブルを強調した3rdアルバム"Its Never Been Like"を経て、彼らは4thアルバム"Wolfgang Amadeus Phoenix"で一つのピークを迎えた。この4thアルバムで、彼らはこれまでのバンドの様々なエッセンスを凝縮させることに成功し、さらには商業的な成功も手に入れることとなる。しかし、こうして1stアルバムから4thアルバムにかけてPhoenixは様々なアプローチで自己を定義しながらも、その自己それ自体を変化させることはなかった。上述のアルバム毎のバンドの変化はあくまでも方法論的次元の話であり、バンドそのものの方向性は常に一貫していたのだ。"If I Ever Feel Better"しかり"Consolation Prizes"しかり"Lisztomania"しかり、聴いていただければ分かるように、一聴してPhoenixだとわかる個性とらしさが一貫して内在している。このことはPhoenixがまさに「着実な成功」を達成できた一つの要因として考えてもいいのではないか。

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1stアルバム"United"からの彼らの代表曲"I I Ever Feel Better"。レトロなメロディーに洒落たサウンドはまさにフレンチポップの雛形となった。

 こうして名実ともに世界最高峰のパリジャン・ロックバンドとなった彼らは2013年、5thアルバム"Bankrupt!"で新たなステージへと進化を遂げた。シンセの象徴的なリフで始まる"Entertainment"はまさにその典型で、PVでは北朝鮮と韓国の映像がモチーフとなっている。そしてそんな彼らの次の一歩がこの4年ぶりの新作である6thアルバム"Ti Amo"だ。

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非常に個人的な話で恐縮だが、この"Entertainment"収録の"Bankrupt!"はめちゃくちゃ好きだ。そうね、めちゃくちゃ聴いたな。にしてもこのPVは突っ込みどころ満載。

 

 そんなこの"Ti Amo"に溢れているのは、まさに"愛"と"煌びやかさ"だ。そのアルバムタイトルがイタリア語で"愛してる"であるのをを象徴しているように、イタリア人男性特有のマスキュリニティーと言ったらいいだろうか、情熱的な愛が感じられる。"I say ti amo till we get along"のフレーズにしろ"I love you, Ti amo, Je t'aime, Te quiero"と英伊仏西語での愛してるのフレーズが揃い踏みする歌詞にしろ、なんともストレートな愛情表現だ。そしてもう一つの"煌びやかさ"であるが、これもまたイタリア的なものに由来している。ローラン・ブランコウィッツ(gt)が実際にインタビューでアルバムについて「夏とイタリアのディスコ」と語っているように*1、本作はイタリアのディスコの影響を受けているようだが、このディスコの要素がサウンドをより煌びやかなものとするのに成功している。

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"Ti Amo"よりファーストシングル"J-Boy"。PitchforkのBNTに選出されている。

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同アルバムより"Goodbye Soleil"。タイトル通り夕暮れの情景が思い浮かぶメロウで懐古的なナンバー。

 

 前作"Bankrupt!"にしろ今作"Ti Amo"にしろ、Phoenixは時代性とは無縁なところにいる。自分たちのその時の興味関心に即した形で楽曲制作を行い、前作ではどこかオリエンタルなリード曲"Entertainment"が、今作ではイタリアンディスコ的な"Ti Amo"が出来上がった。それはひとえに彼らの4thアルバムまでの着実な歩みによってなせる業であり、9年間"Phoenixらしさ"というイメージを定着するのに尽力した結果である。ブラックミュージック旋風が吹き荒れる中で、多くのミュージシャン、バンドがその時代性を取り入れた曲を作り上げることに苦心している。そんな中で、Phoenixはぶれなかった。自分たちの音を追求することができた。そして実際に今作も総じてそこそこの高評価を獲得した。そんな彼らの成功モデルは、そう簡単にまねできることではない。