世界がThe 1975に染まっている。ドバイでの騒動、サマソニでの圧倒的なパフォーマンス、突然のインダストリアルへの転向、レディングで垣間見せたThe 1975のネクストステージ。ここ数週間、ツイッターでThe 1975の文字を目にしない日はない。
そんな中、私はある一枚のアートワークに心を奪われた。その一枚は、The 1975のプロモーションのために製作されたものであるが、そこには単なるコマーシャルなポスター以上のものが込められているように感じた。
// I A L W A Y S W A N N A D I E S O M E T I M E S // L O V E https://t.co/ei5PE7yz4q #ABIIOR pic.twitter.com/kJ5qTV8hi2
— The 1975 (@the1975) December 1, 2018
こちらがそのアートワーク。拡大すると、I Always Wanna Die (Sometimes)と書かれているのがわかる。このアートワークは、スマホなどの電子機器上でスクロールすると少し動いて見えるのだが、そう考えるとアートワークが印刷された紙ではなくスマホの画面上で見られるということを多分に意識しているように思う。Animal ClloectibeのMerriweather Post Pavilionのアートワークの錯覚が、印刷されたCDのジャケットとして見られることを前提にしていることと対照的だ。
参考までに、こちらがAnimal ClloectibeのMerriweather Post Pavilionのアートワークだが、このアートワークの錯覚が効果を発揮するためには、ある程度大きな画像である必要がある。(スマホに表示できる大きさでは足りないはずだ)
The 1975のアートワークは、Samuel Burgess Johnsonという人物が担当している。クリエイティブディレクター、アーティスト、グラフィックデザイナー、そしてカメラマンとして学際的に活躍している人物だ。
まずは簡単に彼のプロフィールを記しておこう。ロンドンを拠点として活動する彼は、前述の通り、多様な分野で活躍している。実際に、ナイキやユニリーバといった巨大ブランドの広告デザインを担当したこともあり、グラフィックデザインからブランディングまで、彼の仕事は多岐にわたる。
近年は拠点をロサンゼルスに移し、新たなタイプのデザインを模索しており、植物のモチーフを用いたデザイニングに力を入れている。実はサミュエルは元Galileo Galileiの尾崎雄貴によるソロプロジェクトwarbearの1stアルバムのアートワークを担当してたのだが、同アートワークが植物のデザインによるのはこの影響にあると思われる。
The 1975やwarbearの他にも、Thirty Second To MarsやZedd、Aluna George、Wolf Aliceといった様々なミュージシャンのアートワークを担当している。
warbearの1stアルバムwarbearのアートワーク。
Thirty Second To MarsのシングルDangerous Nightのアートワーク。
Zedd & Alessia Caraの大ヒットシングルStayのアートワーク。
こちらはZedd & Liam PayneのシングルGet Lowのアートワーク。
The 1975と同郷Dirty Hit所属のWolf Alieの1stアルバムMy Love Is Coolのアートワーク。
サミュエルとThe 1975の出会いはEP”Sex”のアートワークに遡る。今やThe 1975の象徴とも呼べる長方形のフレームが描かれたモノトーンのジャケットは、モダンなThe 1975の音を見事に視覚化していた。
The 1975の2ndアルバム”I Like It...”がリリースされた際には、そのタイトルの長さもさることながら、ピンク色を前面に押し出したネオンカラーのイメージとそのアートワークは、多くのファンを驚かせた。The 1975はこのアートワークを通じて、自身のモノトーン的なモダンなイメージを80年代のアメリカ的なイメージに変えることに成功したのである。
そういえば、この「ピンク」のヴィジュアルイメージが衝撃的であったのは、解散騒動からの復活劇というプロセスがあったからでもあった。
サミュエルがこうして見事に音楽的な変容を捉えたアートワークを生み出すことができたのは決して偶然の産物ではない。バンドのモチベーションを理解するために、サミュエルはマシュー(The 1975のフロントマン)と非常に近い距離で働いているという。音楽のテーマを視覚化するという一見困難極まりない作業を成し遂げるためには、どんなに優れた技術以上に、ミュージシャンとの信頼関係が不可欠なのである。
昨年末リリースされたThe 1975の3rdアルバムA Brief Inquiry Into Online Relationships(以下ABIIOR)のアートワークもまた、同アルバムのテーマを思わせる仕上がりになっている。同アルバムがAI化やインターネット時代の進展をテーマとして扱っているのに対応するように、ABIIORのアートワークも7色のピクセルが描かれたものとなっている。
その他、ABIIORに係る様々なアートワークがTwitterなどを通じて公表されており、収録曲一曲一曲をイメージしたアートワークが作られている。
// G I V E Y O U R S E L F A T R Y – O N E H O U R // @BBCR1 @ANNIEMAC L O V E https://t.co/LREa1DE4oy #the1975 pic.twitter.com/mpF5FiF7Es
— The 1975 (@the1975) May 31, 2018
// T O O T I M E T O O T I M E T O O T I M E // L O V E https://t.co/iYOsNFFSOY pic.twitter.com/Aa6rK3dw2I
— The 1975 (@the1975) August 15, 2018
Sincerity Is Scary pic.twitter.com/mVjiWwNS4J
— 🥾🌍 (@Truman_Black) September 11, 2018
これらのアートワークは皆、文字をその中心に据えたものであり、その意味でカリグラフィーのような作品となっている。こうしたカリグラフィーライクなアートワークは、抽象度が高く、見る者の想像力をかきたてる。
そして、来年リリース予定のNotes on a Conditional Formのアートワークも、次々と公開され始めている。そして、発表されたジャケット写真は、上のようなカリグラフィーライクなアートワークを引き継いだ形になっている。
さて、ここまでサミュエルの作品、特にThe 1975のアートワークに注目して語ってきた。しかし、サミュエルの仕事はここで言及ものにとどまらない。最初に述べたように、多様な分野で様々な作品を生み出している。他の作品に興味を持った方は是非、以下のリンクから彼の世界をたっぷりと堪能してほしい。
ではでは、今回はこんな所で。
※参考文献