ゆーすPのインディーロック探訪

とあるPのインディーロック紹介ブログ。インディーからオルタナ、エレクトロ、ヒップホップまで。

トムヨークと「Brexit」ーーDisc Review : Thom Yorke / Amina [Part.1]

ãthom yorke animaãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

どうもゆーすPです。先日のフジロックでは、ホワイトステージのトリとして見事なパフォーマンスで観客を熱狂の渦に巻き込んだトムヨーク。今回は、そんなトムヨークのソロワークとして先月リリースされた新譜"Anima"のレビューをしたいと思います。

 

 

————―

フジロックでの見事なパフォーマンスがまだ記憶に新しいトムヨークだが、やはりソロワークで特筆すべき点はそのサウンド面の進化であろう。実際に、本作はUKビート、ダブステップアンビエントといった、トムヨーク 、ひいてはKid A以降のレディオヘッドが追求してきたリズムへの飽くなき探究心が結実した1つの結節点として各メディアで評価されている。

しかしながら、本作のサウンド面の要素に注目するあまり、本作に込められたメッセージを紐解くことを疎かにしてはいけないだろう。実際にトムヨークは本作に係るインタビューで以下のように答えている。

これまでは政治的な音楽なんて作りたくなかったんだけどね。今やっているのはとにかくそういうものなんだ。ナイジェル(・ゴッドリッチ)と仕上げようとしているところでね。そういう感じなんだ。常にあったものではあるんだけどね。*1

「これまでは政治的な音楽なんて…」とはなんともトムヨークらしいシニシズム溢れる発言であるが、確かにこの発言の通り、本作には政治的、社会的なメッセージが込められている。しかしながら、そういったメッセージは、作品で直截的に表現されているわけではない。

そこで、本レビューでは、最近のトムヨークの発言や、Anima発売時のプロモーション手法を踏まえつつ、Animaの歌詞を読み解き、本作における「政治的メッセージ」とは何かを考えてみたいと思う。

以下、①トムヨークの昨今の発言に注目し、彼の政治的社会的関心がどこに向いているのか、そしてそういった問題関心に対しどのように考えているのか、を考察、②Anima発売時のプロモーション手法を概観し、同手法が何を意味しているのかを分析、③Anima本編の歌詞を概観し、①②とアルバムAnimaの関連性を考える、という流れで進めたい。

(記事が大分長くなってしまったので、上の①〜③に沿って記事を三分割しました。今回の記事[part1]は上の①に相当する内容で、トムヨークの昨今の発言、具体的にはEU離脱をめぐる発言から、彼の政治的社会的関心を明らかにし、彼が政治(特に現在のイギリス政治)についてどのように考えているか、に迫りたいと思います。)

※そのため今回の記事は全く音楽の話をしていない()ので、どうかご了承ください。 

 

□トムヨークと保守党・Brexit批判

・メイ首相は「第三帝国」のヒトラー

トムヨークは以前からイギリス保守党政権を強く批判してきたが、今年に入り、EU離脱交渉がアジェンダとして眼前に迫ると、彼は改めてBrexitに対する強い反発を明らかにした。

市民や議会を脅すために、無数の方法でこの国に混沌をもたらすために、お前に投票した人なんていない。

ヨーロッパにおける何百万人もの生活を取引の道具として問題化し、そうすることで「第三帝国」初期に相当する多大なる苦痛や苦しみを引き起こすために、お前に投票した人なんていない。

赤いバスの後部座席で叫び声を上げている乗客を乗せたまま、崖から落ちてほしくてお前に投票した人もいない。

恐怖は21世紀のイギリス首相によって用いられるような武器ではないはずだ。

バスを止めろ……すぐに。

 2月初頭に投稿されたこのツイートには、メイ首相に対する強い嫌悪感が現れている。ナチスドイツを指す「第三帝国」という表現が使われているのだからその嫌悪感はよっぽどのものだ*2。「赤いバス」とはもちろんイギリスのダブルデッカーバスのことであろうが、かつてEU離脱派が赤いラッピングバスに、「我々ははEUに毎週3億5000万ポンド支払っている。代わりにNHS(国民保険サービス)に資金を。離脱に一票を」とメッセージを掲示していたことが思い出される。とすると、このトムヨークの発言の「赤いバス」が、この離脱派による誤情報の発信を揶揄していると考察することもできる。(この「EUに毎週3億5000万ポンド支払っている」という情報が誤った事実であると指摘され、ボリスジョンソン前外相・現首相に「公職における失当行為」の疑いがかけられるという事件があった。)

www.independent.co.uk 

実際のラッピングバスの画像がこちら↑

www.bbc.com

ジョンソン氏の訴追をめぐる事件についてはこちらを参照↑

さらにトムヨークは、3月23日に行われたEU離脱の是非を問う再投票の実施を求めるデモ行進に参加し、実際にデモ行進中の写真をTwitterにアップしている。

 

・イギリスの現状にどう向き合うか

ここまで見てきたように、トムヨークの現在の問題関心として、保守党に対する強い批判(嫌悪感と言っても過言ではないかもしれない)、そしてBrexitに対する反対が多くを占めていることがわかる。では、イギリスの現状に嘆く彼は、イギリスの現状とどのように向き合おうとしているのだろうか。

(英・保守党党首選に立候補している)ボリス・ジョンソンが口からでまかせを言っているのだったり、彼が絶対に実現しないことを約束するのを見ていられるのは、直接繋がっているわけではないからなんだ。小さなアバターを通して見ているわけでね。馬鹿みたいな髪型をした小さい男が旗を振っているのを見ながら、『分かったよ、面白いね』っていうことを言っていられるっていうさ。それがもたらす結果はリアルじゃない。僕らがやることのすべてはリアルな結果を生み出さないんだ。匿名のままでいられるからね。アバターを送り込んで罵倒したり毒を吐いたりした後で、すぐに匿名に戻ることができるんだ。*3

この発言を額面通りに受け取ると、あまりにも当事者意識に欠けた発言なのではないかと思うかもしれない。ただ、後で見るような発言を鑑みれば、この言葉は皮肉交じりの表現であると捉えるのが妥当だと思う。つまり、イギリスの政治状況(特に保守党の政権運営)が直視できないほど、真正面から論じるのもばからしくなるほど、ひどい状況にあるということを言いたいのではないだろうか。

ただ、この発言におけるトムヨークの真意が上のようであるとしても、個人と政治/社会の間にアバターという中間項を置き、政治/社会をメタ的な立場から達観し、「どうせ政治は良くならないのだから、真面目に取り合ったって無駄だ」と考えるような心理は、ラスウェルによって現代の政治的無関心として類型化された型のうちの一つ=脱政治的態度(デポリティカル)に合致するように思う。つまりはトムヨークの発言のような達観は現代人にとって身近な思考様式であり、日本においてもそう考える人は多いのではないだろうか。

発言の後半の「匿名」については、両義的に考えることが出来るであろう。匿名性をうまく活用することで権威に立ち向かうことは容易になるし、実際にジャスミン革命アノニマスの活動はある程度成功しているように思える。しかしながら、匿名の領域から権威を嘲ることは、不要な分断を生みかねない。SNSにおいて氾濫している著名人に対する言葉の暴力やフェイクニュースの数々は、「匿名のままでいる人々」が自分の発言・行動に全く責任を持てない様を炙り出している。

この発言だけでは、イギリス政治の現状に対する失望感ばかりで、彼がいかにして政治に向き合うべきか、そしてどのように現状を打破すべきかは読み取れない。むしろこの発言は、「政治と向き合うこと」から逃避してしまっている。では、彼は本当に政治に1mmも期待していないのだろうか。イギリスの将来に希望はないのだろうか。

 

□反エリート主義とアイデンティティポリティクスへの期待

・イギリスの将来に希望はあるか

根本的な構造的変化がない限り、物事は変わらないという考えを持つしかないわけでね。こんなにもたくさんの道化師たちがいる時代にそれを実現させるには、怒りを持つことでしかできないんだよ。

(傍若無人な主人公の破天荒な振る舞いを描いた人形劇である)『パンチとジュディ』のようなことがアメリカで起きているし、どうやらイギリスの政治でも同じことが起きているみたいだからね。この状況が崩れた時に、(アメリカ史上最年少の女性下院議員となった)アレクサンドリア・オカシオ=コルテスのような人がやって来て、こう言ってくれるんだ。『さて、始めましょうか』ってね。僕はそう考えているよ。*4

彼のこの発言は、「根本的な変容が必要」とする点では悲観的であるが、一方で、わずかな希望を見出している*5。実際に、彼のツイッターアカウントを見ていると、全ての政治家を糾弾しているわけではないことがわかる。元ポーランド首相で現在欧州理事会議長ドナルド・トゥスク氏が「柔軟なBrexit」を提案した際に、その提案を支持するツイートをリツイートしていたり、イングランド・ウェールズ緑の党の党首キャロリン・ルーカス氏*6の「メイ首相は合意なき離脱を考慮から外すべきだ」というツイートをリツイートしたりしている。上での発言(「市民や議会を脅すために…」という発言)と伏せて考えると、首相に対する嫌悪感は相当なものである一方で、議会に対してはある程度の信頼を置いているような印象を受ける。また、現在ロンドン市長を務めるサディク・カーン氏の、「世界中で台頭する極右へ対抗し、多様な社会を作っていかなければならない」というツイートをリツイートしていることを、上のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏を支持する発言と併せて考えれば、サディク・カーンやオカシオ=コルテスといった社会的マイノリティの立場を代表する新しいタイプの政治家を支持していることはほぼ間違い無いだろう*7*8。 

つまり、現状の政権運営を批判する一方で、サディク・カーンやオカシオ=コルテスといった旧来の政治エリートに可能性を見出しているということが分かる。これまで一貫して権威を嫌い批判してきたトムヨークらしい一面と言えよう。

 

・終わりに

トムヨークの立場をまとめると、保守党政権・EU離脱に反対し、旧来の二大政党ではない環境政党や社会的マイノリティを代表するような政治家に希望を見出している、と言えよう。

しかしながら、トムヨークの主張にも気を付けなければならない点がいくつかある。第一に、彼の反エリート主義的傾向であるが、世界的に見て、こうした傾向がポピュリズムの伸長とリンクしている点である。トムヨークはトランプへの批判を繰り返しているが、トランプ政権が支持を集めた背景にトランプの反エリート主義的な主張が大衆受けした事実があることを見落としてはならない。

第二に、Brexitとグローバライゼーションの関係である。元々彼はグローバリズムを忌避しており、"OK Computer"以降、一貫して作品にもそういった主張は表れていた。しかし、EU離脱問題においては、彼はEUに残留とするというともすればグローバルな枠組みを承認する主張をしている。もちろんイギリス国民、そして労働者階級の利益を考えてのEU残留支持であろう。しかし、EUという存在そのものの問題も考えなければいけない。日本でも遠藤氏が「統合の終焉」論を唱えたことが話題となったように、EU統合は様々な限界を露呈している。イギリスの立場からすればEU残留がベストな選択肢として考えられるのかもしれないが、残留のその先のEUの見通しは決して明るくないことも考慮に入れるべきであろう。

 

 

 

——————————

ということで、今回はトムヨークの発言やツイッターでの投稿(やリツイート)を参照しつつ、トムヨークの政治的主張を考察してみました。

今回は音楽の話ができなくてすみません。次回[part 2]はやっとこさAnimaの話に入れそうです(笑)。特にAnima発売時のプロモーション手法の話やAnimaというタイトルの意味についての話が出来たらと思います。

ではでは。[part 2]=「トムヨークと『夢』」(仮題)に続きます。

 

*1:レディオヘッドのトム・ヨーク、政治的なソロ・アルバムを制作していることを明かす | NME Japan

*2:ちなみに「第四帝国」としてEUが言及されることが多々あるのだが、そう考えるとEU離脱交渉が「第三帝国」のタームで語られるのには多少違和感がないわけでもない。そもそも「第◯帝国」ってドイツのことだし。

*3:レディオヘッドのトム・ヨーク、新作『ANIMA』や世界の政治情勢について語る | NME Japan

*4:レディオヘッドのトム・ヨーク、新作『ANIMA』や世界の政治情勢について語る | NME Japan

*5:政治に関しては非常にペシミスティックな発言が多いトムヨークにしては、少々珍しいような気がする

*6:2010年の総選挙で同党として初めて当選した人物。

*7:サディクカーン氏はイスラム教徒として初めてEU加盟国の首都の市長となった人物である

*8:オカシオコルテス氏については、彼女が先日発表した「グリーンニューディール」政策を支持する発言をしていた