ゆーすPのインディーロック探訪

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星野源が見据えるJポップの未来ーSong Review : 星野源 / アイデア

星野源が見据えるJポップの未来

ソングレビュー : 星野源 / アイデア

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星野源初の配信限定シングル。NHK朝の連続テレビ小説『半分、青い』の主題歌。

 

星野源の強みは、昨今の世界的潮流であるブラックミュージックから先進的なエレクトロ、アブストラクトミュージックまで、非常に多様で刺激的な音楽を、「Jポップ」というフォーマットに落とし込むことに長けていることにある。大ヒットシングル”Sun”や”恋”におけるファンクミュージックの参照にはっきりと現れているように、彼の音楽にはブラックミュージック的なリズムの影響が見て取れる。一方で、彼は決してJポップの流儀を忘れることはない。ポップでキャッチーなメロディーラインは、「歌モノ」であることが第一に重視される日本のポップシーンを多分に意識しており、実際に売り上げ面を見てもその意図の成功は火を見るより明らかであろう。そして、彼の一番の功績はこの両者のミックスを見事なバランスでもって成し遂げたということにある。ブラックミュージックに馴染みがない日本の大多数のリスナーにはブラックミュージックの単調なリズムはウケが悪いし、だからと言ってJポップ要素を強めてしまってはそもそもの星野源の目標から外れてしまう。「ブラックミュージックとJポップの見事なバランスの上での接合」。言葉にすれば簡単だが、これを成し遂げることは決して簡単なことではなかった。

4thアルバム"Yellow Dancer"で見事に「ブラックミュージックとJポップの接合」を成し遂げ、日本の音楽シーンの中心に躍り出た星野源が次に目を向けたのが、先進的な日本の音楽シーンであった。上に述べたように、彼はJポップとブラックミュージックを見事なバランス感覚で融合してきたが、ここでの引用はD’AngeloやKendrick Lamar、Kaytranadaといった主にUSシーンの中心、先端にある人々から成されていた。もちろん今作にもこうしたブラックミュージック、ひいてはUSシーンの音楽からの影響は散見される。しかし、本作がこれまでの作品と大きく趣が異なるのは、ここに日本の、ドメスティックな音楽シーンの潮流を取り入れたことにある。

一番を聴いた限りでは、いつもの星野源らしい楽曲である。ブラックミュージックのリズムをJポップ的なリズムへ移し替える技とも言えるモータウンコアに、ソリッドな楽器隊。こうした要素は星野源がこれまで作り上げてきた「星野源的な音楽」(これを彼自身、イエローミュージックと表現している)の真髄に他ならない。PVの背景が赤→黄→ピンク→青と変わる演出は、そんな音楽家として、イエローミュージックを確立させるまでの星野源の歴史的変遷を表現している(それぞれ赤=4thアルバムYellow Dancer、黄=9thシングル恋、ピンク=10thシングルFamily Song、青=11stシングルドラえもんと過去のディスコグラフィーのイメージカラーとなっている)。

問題は二番だ。ここでファンキーなモータウンコアは鳴りを潜め、内省的なエレクトロミュージックへと移り変わる。このパートを彩るのが、MPCプレイヤーのSTUTSである。NYハーレムでの路上ライブ映像(STUTS performed with MPC1000 on 125th St, NY (Harlem) - YouTube)で一挙注目を集めることとなったSTUTSが叩くMPCプレイヤーの音色は、独特のビート、ライブ感溢れるグルーヴに仕上がっている。このエレクトロの音像は、James Blake的なソウル、ダブステップからFrank Oceanのアンビエント/インディーR&Bを経由した10年代的なものと言える("アイデア"においては左のような静謐な音像だが、STUTSの手掛ける楽曲は主にヒップホップの影響を受けたものが多い。実際に彼の1stアルバムPushin'にはPUNPEEやKID FRESINO等が参加している)。

さらにもう一人、このパートを彩る重要なキーマンが三浦大知である。歌って踊れる「エンターテイナー」として活躍する彼は、その高い歌唱力とダンス技術から「和製マイケルジャクソン」とも称されており、アッシャーやビヨンセコリオグラファーからも賛辞を受けている人物だ。彼はこの"アイデア"のPVの振り付けを担当しており、カメオ出演も果たしている(これまで、彼の音楽はそこまで音楽評論家に注目されてきたものではなかったが、今年7月に発売されたニューアルバム”球体"が凄まじいと話題になって以降、その知名度は音楽フリークにも広まることとなった。この”球体”も先程言及したフランクオーシャン以降のPBR&B、オルタナティブR&Bの流れに位置する作品だ。三浦大知は本楽曲においてはあくまでもダンスの振り付けという形で作品に寄与しているので、その音楽的要素がここで見られるわけではないが、彼の音楽もまた、STUTS同様世界の、そして日本の先進を行く音楽だ)。

 

僕はもともとブラックミュージックが好きなんですけど、でもブラックミュージックを突き詰めていくだけではそれが自分たちの音楽にはならないという葛藤がずっとあって。もう血の段階で絶対に敵わないし、うまく真似できることが賞賛される時代はもう終わったと思うんですね。そんななかで自分たちの音楽とは何かと考えたときに、いろんな国の音楽を吸収しつつも真似をするのではなく自分たちのフィルターをしっかり通した音楽、イエローミュージックというものを考えたんです*1

こう語っていた彼が、「イエローミュージック」をさらに突き進めるために、STUTSと三浦大知という日本の音楽界の新星に目を向けたことは、必然のことであろう。ここまで述べてきたように、星野源のこれまでとJポップの未来――この過去と未来の結節点が"アイデア"にある。イエローミュージックを作り上げてきた彼の新しい挑戦は果たしてどこへ向かうのだろうか。そして、Jポップはどこへ向かうのか。10年代のJポップシーンはお世辞にも明るい展望を見いだせていない。そんな行き詰まったシーンに風穴を開ける楽曲として、この"アイデア"は聴かれるべき名曲だ。

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