ゆーすPのインディーロック探訪

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日常と非日常、現実と理想ーDisc Review : Superorganism / Superorganism

日常と非日常、現実と理想

Disc Review : Superorganism / Superorganism (2018)

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私たちは音楽を携帯する。ウォークマンで、iPodで、スマホで、電車の中でも散歩中でもどこでも、音楽を聴くことができる世の中にいる。そんな現代社会において、音楽は非常に身近な存在だ。いつでもどこでも聴くことができる音楽は、もはや日常の一部となっているという人も多いだろう。

一方で私たちは音楽に非日常を求める。あまりにも猥雑な現実からの逃避行のために、イヤフォンをつけて目を閉じる。すると、アメリカの摩天楼や北欧の広大な自然等の、ーそこが現実にはたとえ満員電車の中であってもー別の世界へと一瞬で没入できる。
簡単に「持ち歩く」ことのできるようになった音楽は日常の風景の一部となりながら、他方で非日常に耽るためのツールとして機能する。一見相反するこの音楽をめぐるあり方を、Superorganismの満を辞してのデビューアルバム"Superorganism"は見事に体現している。

 

・What is "Superorganism"

彼らが注目を集めたきっかけは、彼らのデビューシングル"Something For Your M.I.N.D."がApple Music内のフランクオーシャンの番組"blonded Radio Ep.2"でプレイされたことであった。以降瞬く間に話題が話題を呼び、音楽シーンの新たな注目の的となった。
この"Something For Your M.I.N.D."やその後に発表された"It's All Good"はサイケ感溢れる楽曲で、MGMTThe Go! TeamSuper Furry Animals等のような、雑多なわけのわからなさが特徴的なトラックであった。
そしてついに今年三月、多くのメディアが注目する中デビューアルバム"Superorganism"がリリースされた。同アルバムは上記2曲を含む10曲33分からなっている。

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彼らの1stシングルにしてデビュー曲"Something For Your M.I.N.D."。サイケデリックでありポップでもある、不思議な魅力が詰まった一曲。

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続く2ndシングル"It's All Good"。同PVの1分すぎ、なぜかNeutral Milk HotelのTwo-Headed Boyを再生しようとするiPodが映っている。

 

・日常性と非日常性を併せ持つ

と、少しばかりSuperorganismのバイオグラフィーを紹介したところで、冒頭の表現に立ち返って本作の音楽的特徴を考えてみよう。つまり、本作が「音楽の日常性と非日常性の両方の性格を表現している」という点についてだ。

基本的に彼らの音楽の多くはサイケデリックでドリーミー、その意味では非常に非現実的な性格を有している。全編を通して聴かれるうねるシンセやギターのリヴァーブに見られるように、こうした仕掛けは我々を別世界へ、夢や幻想の世界へと誘う働きをする。
さらに歌詞に目をやると、"I think that you and I could set the world alight"(Everybody Want Be Famousより)や"We know you feel the world is too heavy but you can turn around if you want"(It's All Goodより)など、「我々は世界を変えることができる」というあまりにもオプティミスティックな一節が並んでいる。こうした世界に対する楽観的な予測は、リアリスティックなものというよりは理想的、空想的なものだ。

一方で、所々に散りばめられた生活音が我々を現実世界へと引き戻そうとする。それは雨の音であったり小鳥のさえずりであったり車のクラクションであったり、我々が生活する中で日々耳にする音である。こうした音がちりばめられたものとして最も特徴的な曲が、"Nai's March"だ。同曲の1分過ぎ、それまで流れていた楽曲が突然音楽がフェードアウトし、聴きなれた駅のアナウンスと発車ベル、そして緊急地震速報の警報音がけたましく鳴り響く。実際に私がこの曲を電車の中で聴いていた時、突然イアフォンから流れ出したアナウンスに驚き、そしてはっと現実の世界へと揺り戻された。この駅のアナウンスが日本のそれであることもあって、本当に現実世界でこのアナウンスが流れたかのような錯覚に陥ったのだ。


『◯◯を知る』や『◯◯のすべて』といった本が溢れる現代社会、我々は物事を余すことなく知りたがる。何か疑問が生じた際に、すぐにGoogleへと向かい答えを一瞬で見つけ出そうとする。そんな世界のあり方は、何かの問いに対して、できるだけ簡潔に説明することがしばしば求められることにも現れている。しかしながら、世界というものはそんなに単純な物事で溢れていない。現実はあまりにも猥雑でよくわからないもので溢れている。
本作は、音楽の持つ日常性と非日常性という一見相反する性格を見事に体現している、と書いた。そんな中で、彼らの描く「日常」は、車のクラクションしかり電車の発車ベルしかり、猥雑でつかみどころのないものとして表現されている。私たちは日々、世界が単純であってほしいと思うか、もしくは単純であると思いこんでしまう。しかしながら、現実の世界は単純ではない。彼らが本作で見事に表現したように、現実の世界はごちゃごちゃで、複雑で、説明不可解なことに溢れているのである。たまにはそんな世界に思いを馳せて、答えのない問いについて思いを巡らすことも必要なのではないかと思ったり。

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彼らのテーマソング?"SPRORGNSM"。"Everybody wants to be a superorganism"のフレーズが印象的。

 

ということで、今回は2018年作品としては初のレビュー記事となります。初来日が記憶にも新しい8人組のスーパーグループSuperorganismのデビュー作を取り上げました。どの曲も非常にポップで耳に残りやすく、それでいてクセがあって飽きが来ない。なかなかの良作だと思います。2018年のシーンに本作がいかなる影響を与えるのか、注目です。