ゆーすPのインディーロック探訪

とあるPのインディーロック紹介ブログ。インディーからオルタナ、エレクトロ、ヒップホップまで。

エレクトロの新たな萌芽とポスト・インディーロックの挑戦ー2017年上半期個人的良盤まとめ

と言うことで予告していたように、今回は2017年上半期の個人的良作アルバムを10枚ご紹介。前回同様、特に順位は付けず、順不同。(五十音順)

 

・Ásgeir / Aftergrow
フォークトロニカの新たなる挑戦


Ásgeir - Stardust (Official Video)

3年前の彼のデビューは非常に印象的だった。彼の素朴な歌声とまさにアイスランドらしい牧歌的なフォークソング、そうしたノスタルジーの一方でポップネスやエレクトロへの羨望ーこうした一見相容れない対照的な諸要素を内包することに彼はなんと1stアルバムにして成功したのである。それから3年、彼はフォークミュージックからポップネスとエレクトロへと振り子を振り切りこの"Afterglow"を完成させた。こうしたフォークトロニカからエレクトロ・ポップへの転換は昨年のAnohniやBob Iverが印象的だ。アコースティックなサウンドに、あえて重層的なオートチューンの機械的な声をぶつけることでその声はかえって生々しく迫ってくるというBon Iverの"発明"をしっかりとフォローしている。こうしたフォークミュージックをルーツに持つミュージシャンらの挑戦は、確実に新たな音楽的潮流を生み出すことに成功していると言えるだろう。
 
・Casimir Cat / 9
結局9が指すものはなんなのかが分からない


Cashmere Cat - 9 (After Coachella) ft. MØ, SOPHIE

Selena GomezやAriana Grandeといった超大物からThe WeekndやMØといった時代の寵児まで、非常に豪華な客演陣が光るCashmere Catの初となるフルアルバム。EP"Mirror Maru"では、繊細で艶やかなエレクトロを聴かせてくれた彼だったが、あれから4年、まさかここまで大成するとは。 EDMとエレクトロの間、ポップとインディーの間、シュールとリアルの間、大衆と玄人の間を自由自在に動き回る彼の音楽的幅の広さは半端じゃない。4曲目"Wild Love"のオートチューンはまさに前述のBon Iverを想起させるし、Ariana Grandeをフューチャーした5曲目"Quit"なんかはポストEDMを匂わせる憎いフックの効いたメロディが印象的だ。タイトルトラック"9(After Coachella)"はタイトルもさることながらコミカルなPVが非常に面白い。(このPVのKarenってMØなんですね、わかんなかった…)彼のこうした一種の身軽さは、この作品をより広範な層へと届けることに成功した要因の一つであることは間違いないだろう。ところでこの9とは一体何を意味するのだろうか。電話の9から来ているとするサイトもあったのだが、それではその"電話の9"は一体何を意味するのか。真偽のほどはいかに。
 
Dirty Projectors / Dirty Projectors
"インディーロックとして"進化するために


Dirty Projectors - Up In Hudson

Dirty Projectorとしては約4年ぶりとなる8作目な訳だが、実際のところ今作はDave Longstrethのソロワークによって作られたということでDaveのソロプロジェクトといった方が良いかもしれない。そんなソロワークとなった本作のタイトルに"Dirty Projectors"というバンドの名前をつけるとは何とも皮肉的なような気がするが、非常に挑戦的な本作においても、なるほど、これまでUSインディーを牽引してきたDirty Projectorsのエッセンスは不思議と失われていない。R&Bの要素が色濃く加えられた本作においてもあくまでもその根底にあるのはインディー主義的な手法であり思考である。10年代以降、インディーミュージックはブラックミュージックの台頭によってそのプレゼンスを失い、再び蛸壺的なものへと戻っていった。しかしながら、ブラックミュージックやポップミュージックがインディーミュージックの強い影響を受けて世界的覇権を握ったように、2017年のインディーミュージックもまた、ブラックミュージックやポップミュージックのエッセンスを取り入れて新たなインディーミュージックを作り出そうとしている。着実にその努力が進んでいることを、(The xxと)Dirty Projectorsは示してくれたのだ。Dirty Projectorsはブラックミュージックが覇権的であるのにもかかわらず、あくまでも"インディーであること"を捨てずに、インディーとブラックミュージックの共存に挑戦したのである。閉塞主義的なインディーロックと大衆的ポップという相容れない分断に直面した彼は、その両者を単に止揚して解決することを良しとしなかった。彼は"インディーであること"を第一に掲げ、インディーネスにポップ、ブラックミュージックを取り込んだのである。
 
・Girlpool / Powerplant

※コメントは以下過去記事参照

indiemusic.hatenadiary.jp

 

・Golliraz / Humanz
架空バンドであることの強みを生かしたコスモポリタニズム的メッセージ

Gorillaz - We Got The Power (Official Audio)

デーモンアルバーンが中心として立ち上げたあのヴァーチャバンドがついに帰ってきた。架空バンドだからこそ可能なオルタナティブロックにトリップホップにヒップホップにエレクトロまで、まさに何でもありなゴリラズの多様性が、あますことなくふんだんに盛り込まれている。ベテランDe La Soulから鬼才Danny Brown、新人Vince Staple、さらにはなんとNoel Gallagerまでが参加するこの"Humanz"は、世界の多様性を丸ごと包み込む魔法を持っている。なんて言ったら理想主義がそうそう過ぎるかもしれないが、本作は、ポピュリズムや排外主義が蔓延する現代社会に対する強烈なメッセージを内包しているのだ。
 
Joey Badass / All-Amerikkkan Badass
ケンドリックの告発とチャンスの共存の先にあるJoeyの哲学


Joey Bada$$ - Temptation

革命が失敗する、または革命に成功したもののその革命政権がすぐに崩壊するーこうした革命の失敗の主要な要因の一つとしてよく言われるのが、政権打倒自体が目的化してしまい、政権打倒以降のヴィジョンが無いことである。モルシ政権打倒以降のエジプト、カダフィ政権崩壊後のリビア等、歴史的に見ても独裁政権打倒後に混乱がかえって深まる事例には枚挙にいとまがない。とはいっても耐え難い抑圧、差別を受けてきた人々が、感情的になって怒りに身を任せてしまうことも、また仕方のないことであろう。そんな中で、Joey Badassの本作はそうした点に意識的だ。彼は現在アメリカを支配する白人至上主義に対して、極めて厳しい言葉でそれを批判しているが、一方で、こうした白人の黒人に対する挑発に暴力をもって応酬することの危険性を歌っている。単に生産性のない批判を繰り返すのでは問題の解決へは繋がらない。彼はただただ攻撃的な主張をするのではなく、「もっとうまくやろうぜ」、と主張しているのだ。

 
・Laura Marling / Semper Femina
新世代ブリティッシュ・フォークの根強い人気の訳


Laura Marling - Wild Fire (Official Lyric Video)

Laura Marlingの通算6枚目のニューアルバムとなる"Semper Femina"。Laura Marlingは、英ハンプシャー出身の女性SSWで、18歳で2008年にデビューして以降、名実ともに高い人気を誇っているイギリスを代表するシンガーである。今作においても彼女はこれまでのブリティッシュなフォークを基に、独特のメロディを紡ぎ出している。そして、この癖になるメロディに不穏なストリングスやギターのアルペジオが重なり合うことで、唯一無二の世界観を生み出すことに成功しているのだ。にしても本国イギリスでの人気は凄まじく、グラストではメインステージに出演しており日本における人気との差が特に顕著な彼女であるが、この知名度の差は長年来日公演が実現しない一つの原因となっているわけで……一体いつになったら来日するのか。長年待ち続けているファンは多いはず。
 
Perfume Genius / No Shape
孤独を乗り越えたマイクの歌


Perfume Genius - Slip Away (Official Music Video)

彼のデビューは衝撃的だった。傷だらけのマイク・ハッドレアスが綴る孤独と苦しみを乗せたどうしようもなく美しい音楽は、USインディー界に大きな賞賛をもって迎えられ、彼は早くも自らの世界観を確立することになる。そして、彼の苦しみは制作活動の過程で徐々に浄化されたのだろう、音楽に光を見だした彼は遂に3rdアルバム"Too Bright"でもって、シンセを導入するなどによってより曲調を広げ、より開放的な作品を作り出したのである。そうして新たな扉を開いた彼の次なる一歩が、この"No Shape"なのだ。"形のないもの"を謳った本作のアルバムタイトルが示すように、様々なジャンルの音を駆使しながら、重厚的なサウンドを作り上げている。かつて、哀しみをありのままに歌い上げた孤高のシンガーは、音楽によってその哀しみを癒し、また歌を歌うのである。
 
Slowdive / Slowdive

※コメントは以下過去記事参照

indiemusic.hatenadiary.jp

 

・The xx / I See You
※コメントは以下過去記事参照
 
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ということで、今回は2017年上半期リリースのアルバムを10枚紹介しました。新たなエレクトロの萌芽やインディーロックの方向転換、ポリティカルなヒップホップの新たなメッセージ等、2016年がブラックミュージック一強であったのに対して、2017年の上半期は様々なジャンルで傑作が生まれました。今年後半は、今最も影響力のあるインディーロックバンドArcade Fireや、停滞したUKロックシーンに強烈なヴィジュアルイメージを持って帰還したThe Horrors等のリリースが予定されており、私はインディーロックがもっと盛り上がりを見せてくれることを密かに期待しております笑。