”耽美派”が提示する過去と現在
2017年、シューゲーザーシーンが何だかおかしい。3月にシューゲーザーの勃興に大きな影響を与えた
The Jesus and Mary Chainが19年ぶりにアルバムをリリース。5月に
Slowdiveが22年ぶり、6月にはRideが21年ぶりの新作リリースーといった具合である。
80年代後半から90年代にかけて活躍しその後のシーンに多大な影響を与えたシューゲーザーシーンの中心的三組が、この三ヶ月の間こぞってに新譜をリリースするなんて、これはもう
タワレコが『感涙!大復活キャンペーン*』とかやっちゃうのも頷ける。(*
ジザメリは対象外なので悪しからず…)
Ride - Charm Assault (Official video) 衝撃のリリースを果たしたRideの21年ぶりの新譜からの先行曲。世界のトップDJ、エロル・アルカンによるプロデュース。
・彼ら"らしさ"と新たな試み
そんな中で、非常に高い評価を得ているのがSlowdiveの新譜"Slowdive"である。Pitchforkでは8.6点を獲得しBest New Albumに選出され、Stereogumでは2017年の上半期ベストアルバム50選の2位にランクイン、と各メディアが絶賛。大体こういう過去の伝説的バンドの復活作って長い期間のブランクがあったりとりあえず新譜をリリースすることが目的になってしまったりで、正直なとこクオリティーに多少の難がつくことが多い(*あくまで個人的感想です...)。のだが、Slowdiveの今作品は違った。22年のブランクを感じさせない変わらない耽美でドリーミーな音像は"らしさ"を失なっておらず、非常にハイレベルな作品であったのだ。
本作のオープニングトラックは"Slomo"。かつての名作"Souvlaki"のナンバーを思わせる
Slowdiveらしさ溢れるドリーミーなトラックだ。ゆっくりと日が昇る静かな風景を思わせる
ニュートラルでドリーミーな音像は聴くものに対してなにかそっと包み込むような安心感を与えてくれる。また4曲目"Sugar for the Pill"も浮遊感のある独特なメロディーで耽美な音像を聴かせてくれ、かつての彼らの枕詞であった"
耽美派"という表現を思い起こさせる。一方で2曲目"Star Roving"は
Slowdiveには珍しく比較的
BPMが早めで疾走感があるナンバーだ。力強いギターリフとドラミングを聴かせてくれるこの曲で、彼ららしさは残しつつも新たな
Slowdiveのイメージを提示しようとしている今作の試みを垣間見ることができる。アルバムの最後を締めくくる"Falling Ashes"は、どこか
Radioheadの"Daydreaming"を想起させるミニマルな美しくかつ退廃的なピアノの音が繰り返され、ドーリーミーで非現実な世界から、夢から徐々に醒めてゆくような印象だ。こうしてゆっくりと静かに、余韻をたっぷりと残したまま46分の夢物語は幕を降ろす。
思い返すと、"ラブレスによって完成されてしまった"シューゲーザーの道のりは困難だらけだった。ブームは長期化せずに終息してしまい、多くのバンドが
マイブラの模倣に終始。結局90年代中盤の
ブリットポップの陰に隠れ、シューゲーザーシーンは沈静化してしまった。しかし、そんなシューゲーザーシーンが再び脚光を浴び始めている。2000年代の後半にかけてのUSインディーシーンの盛り上がりに連動して、ドリームポップが人気を博し始めるのだ。ピッチフォークの後押しを受けたドリームポップムーブメントは、Beach House、Deerhunter、The Pains of Being Pure At Heart、DIIV等々、多くのバンドの成功を生み、高評価を獲得した。90年代のシューゲーザーシーンの影響を受けた彼らは、"前を向いたシューゲーザー"として、新たなシューゲーザーの可能性をポジティブに、提示したのだ。そんな新たなシューゲーザーの出現に呼応するかのような、黄金期のシューゲーザーシーンを担ったベテランのバンド達の復活ラッシュ。この新たなシューゲーザーといわば伝統的シューゲーザーをつなぐ役割を、
Slowdiveの本作は担っている。足元を凝視し下を向いていた今までのshoe-gazerから前を向いた"front-gazer"へ、新たな可能性を模索するシューゲーザー/ニューゲイザー/ドリームポップの未来は意外と明るいのかもしれない。