ゆーすPのインディーロック探訪

とあるPのインディーロック紹介ブログ。インディーからオルタナ、エレクトロ、ヒップホップまで。

モノトーンからの脱却ーDisc Review : The xx / I See You

モノトーンからの脱却

ディスクレビュー : The xx / I See You (2017)

f:id:vordhosbn:20170531111614p:plain

 今日は、今年リリースのThe xxの新譜を紹介します。ちなみにThe xxが昨年の12月に行った単独公演は、個人的には昨年のベストアクトの一つであったりします。

 

 

 

・The xxの"引き算の美学"
 2009年の1st、2012年の2ndアルバムに次ぐ約4年半ぶりの新譜。もう4年前なのか、Coexist。おっと失礼。ただ4年の間が空いたとはいっても2015年にはJamie XXがソロアルバム"In Colour"をリリースしていたのもあって、お久しぶり感は多少薄れてるかもしれません。
 元々The xxは、徹底されたミニマリズムを武器に、いわば"引き算の美学"と形容される音作りを特徴に、イギリスのアンダーグラウンドシーンから支持を広げてきました。ポスト・ダブステップを思わせる洗練されたクールなエレクトロ・ビートとJoy DivisionやPILといった70年代以降のポスト・パンクの空気感ーこの二つが絶妙にマッチして生み出される音は、まさに新たな発明であったのです。そして、その彼らのインディー精神は当時絶頂期であったUSインディーシーンに対するUK側の回答として、大いに評価されるに至りました。こうしてThe xxは、静寂を恐れ音をどんどんと足していくポップミュージックシーンに対して、"引き算の美学"なるものを構築していったのです。


The xx - Crystalised (Official Video)

The xxの1stアルバムより"Crystalised"。この時点で彼らの平均年齢は20歳にも満たない若さというもんだから驚きです。


The xx - Angels (Official Audio)

2ndアルバムよりオープニングナンバー"Angels"。ライブではこの曲がラストに演奏されることが多いです。

・ジェイミーのソロワークがもたらした色
 そんな彼らの大きな転換点となったのが、Jamie XXのソロアルバムIn Colourでした。そのアルバムタイトルとジャケット写真が強調する"色"がThe xxの1st、2ndアルバムのモノトーンのジャケットとは対照的なように、In Colourはサンプリングを多用しジャズやレアグルーヴのエッセンスが散りばめられており、様々なジャンルの影響を受けた作品となっていました。

f:id:vordhosbn:20170531112715p:plainf:id:vordhosbn:20170531112731p:plain

左が1stアルバム"xx"(2009)、右が2ndアルバム"Coexist"(2012)のジャケット写真。

f:id:vordhosbn:20170531112721p:plain

一方Jamie xxのソロアルバム"In Colour"のジャケット写真。上の二枚とは対照的です。


Jamie xx - Loud Places (ft Romy)

Jamie xxのソロワークから"Loud Places"。The xxの来日公演でも披露されました。この曲から"On Hold"への展開は鳥肌ものでした。

 このジェイミーのソロワークにはThe xxのメンバーであるオリヴァー、ロミー両人も参加しており、その影響は3rdアルバムI See Youに強く発揮されています。ダリル・ホール&ジョン・オーツのI Can't Go For That (No Can Do)をサンプリングしたアルバムからのファーストシングル"On Hold"を筆頭に、R&Bやソフトロック、ハウス、ガラージといった様々なジャンルの影響を受け、かつてのモノトーンであったThe xxのサウンドを彩っています。


The xx - On Hold (Official Audio)

"I See You"から1stシングル"On Hold"。開放的なポップネスが彼らのネクストステージを印象付ける。

クロスオーヴァーと10年代の行方
 こうして彼らは自らのミニマリズムと上記様々なジャンルの融合を試み、閉鎖的だった時代に別れを告げ、開放的なポップネスにへと華々しく転化したのです。このジャンルを超えたクロスオーヴァーの試みは、近年のポップミュージックにおける主流となっており、実際に昨年の例で言えばBeyonceとJames Blake、Chance the RapperとFrancis and the Lights、A Tribe Called QuestとJack White等、ポップシーンにおいて中心的で重要度の高い作品の多くでクロスオーヴァーの試みがなされています。(逆に言えば、クロスオーヴァーの試みがなされた作品は高評価を得ているともいえますね。)こうした影響によってポップやヒップホップ、R&Bといった音楽は多くの人の関心を集め、高い売り上げを達成しながら同時に評論筋からの高評価の獲得を達成したのです。一方で深刻化したのはロック界でした。2016年のグラミー賞のAlbum of the Yearにおけるロック勢のノミネートは0。時代はブラックミュージック一色。ーでは、ロックはまたしても終わったのか。
 この問いに対してThe xxの本作は、一つの答えを与えてくれます。ロンドンのアンダーグラウンドシーンから登場し、今や世界的人気を獲得した彼らのネクストステージは、2010年代のロックの低迷に対する一つの方法論的な転換をもたらしうるのか。2017年に入ってリリースされたDirty Projectorsの新譜やArcade Fireの新曲には、明らかにブラックミュージックの影響を見て取れます。こうしたロックミュージック側からのクロスオーヴァーの試みは果たして成功するのか。2010年以降のブラックミュージックの覇権に対して、インディーロックはやっと答えを見つけることができたのでしょうか。これからのインディーロックの流れに注目です。


Dirty Projectors - Little Bubble (Official Video)

今年リリースのDirty Projectorsの7枚目のアルバムから"Little Bubble"。この作品を取り巻くブラックミュージックのエッセンスに注目です。できたら別記事で取り上げたいなぁと思っております。